パーサビアランス、火星大気からの酸素生成に成功

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NASAの火星探査車「パーサビアランス」の実験装置で、火星大気の主成分である二酸化炭素から酸素を作り出すことに成功した。

【2021年4月26日 NASA JPL

4月20日にNASAの火星探査ローバー「パーサビアランス」に搭載されている実験装置「MOXIE」が、火星大気の二酸化炭素(CO2)から酸素(O2)を生成することに成功した。

火星の大気の96%は二酸化炭素だ。MOXIEは二酸化炭素を酸素と一酸化炭素(CO)に分解して、不要な一酸化炭素は火星大気中に放出する。今回MOXIEが生成した酸素は約5gで、これは宇宙飛行士1人が10分間呼吸する量に相当する。MOXIEは最大で1時間に10gの酸素を生成できるように設計されている。

MOXIEによる酸素生成
MOXIEによる酸素の生成量を示したグラフ。縦軸が生成した酸素の総量(単位:グラム)、横軸は時間(単位:秒)。今回の実験では、約2時間のウォームアップの後に1時間当たり6gの割合で酸素を生成した。途中、機器の状態確認のために2回ほど生成速度が下がった("current sweeps"と記された箇所)ものの、1時間の稼働で5.37gの酸素が生成された(提供:MIT Haystack Observatory)

二酸化炭素を分解して酸素を作り、貯めておくことが技術的に可能になれば、火星に滞在する宇宙飛行士の呼吸に必要な酸素を供給することはもちろん、火星から飛び立つロケットの燃料を燃やす酸化剤としても使用できる可能性がある。ロケットは燃料を燃やすために、燃料自体を上回る量の酸素を酸化剤として必要とする。将来のミッションで4人の宇宙飛行士が火星から飛び立つためには、7tのロケット燃料と25tの酸素が必要だ。火星上で生活したり作業したりする宇宙飛行士が呼吸するのに必要な酸素は、ロケット燃料の酸化剤として必要な量よりははるかに少ない。「宇宙飛行士が1年の火星滞在に必要とする酸素は、せいぜい1tくらいでしょう」(米・ヘイスタック天文台 Michael Hechtさん)。

だが、地球から火星に25tもの酸素を運ぶのは骨の折れる作業だ。それよりは、MOXIEをさらに強力にした大型の酸素変換器(重さ1tほど)を火星に運んで25tの酸素を作り出す方が経済的で現実的だろう。他にも、火星の砂(レゴリス)から建造物を作ったり、生産した酸素に水素を化合させて水を作ることなどが考えられる。このように、火星探査を実現するためには現地での資源調達が不可欠だ。「MOXIE(Mars Oxygen In-Situ Resource Utilization Experiment = 火星酸素“その場”資源活用実験)」という名称にもその意義が込められている。

技術実験であるMOXIEは、地球からの打ち上げや、7か月近くかかる火星までの旅、さらに火星表面への着陸に装置が耐えうるかどうかを確認するために作られた。今後約2年間の間に、昼と夜、また季節によって異なる温度条件の下で、少なくともあと9回の酸素抽出実験が実施される予定だ。MOXIEの技術の実証は始まったばかりだが、SFのような世界が現実となる道が開けるかもしれない。

MOXIE
NASAジェット推進研究所で、パーサビアランスの機体に搭載されるMOXIE(提供:NASA/JPL-Caltech)