X線バーストの核融合を再現する新手法

このエントリーをはてなブックマークに追加
恒星内部以外で核融合による元素合成が起こっている現場の一つ、X線バーストについて、反応の一部を精度良く再現するための実験手法が開発された。

【2021年10月26日 東京大学大学院理学系研究科・理学部

恒星が輝くのは、軽い元素から重い元素を合成する核融合反応で生じるエネルギーによるものだが、宇宙では恒星の内部以外にも核融合反応が起こっている場所がある。その一つとされるのがX線バーストだ。コンパクト天体(中性子星やブラックホール)と普通の恒星が非常に接近した連星を成している場合、重力の大きなコンパクト天体が恒星からガスを引き寄せ、そのガスがある程度降り積もったときに爆発的な核融合反応が起こり、大量のX線を放出しているのだと考えられている。

太陽のような恒星では数億年にわたって核融合が続くが、X線バーストは数秒から数十秒程度で終わる。一方、恒星内部の温度が数百万度から数億度であるのに対して、X線バーストの現場はそれを上回る10億度以上に達している。このような超高温でなければ実現しない過程を通じて、私たちに身近な元素の一部が合成されたと考えられている。

X線バーストにおける核融合は「rp(高速陽子捕獲)過程」という経路をたどる。原子核は陽子と中性子からなり、どちらかが多すぎると不安定になってしまうが、rp過程は原子核が陽子を捕獲し、常に陽子過剰なまま成長していく経路だ。さらに、原子核がα粒子(陽子2個、中性子2個からなるヘリウムの原子核)を捕獲して陽子(p)を放出する「(α,p)反応」を挟むことで反応が高速に進むと考えられるので、X線バーストの核融合はαp過程とも呼ばれる。

一連の過程は不安定な原子核から不安定な原子核を作り続けるものであるため、実験室で再現するのは難しく、研究はあまり進展していなかった。そんな中、中国科学院近代物理研究所の胡钧さんたちの研究チームは新たな手法を開発し、経路の一つである22Mg(α,p)25Al反応の反応率(温度に応じてどれだけ反応が起こりやすいかを示す数値)を精度良く求めることに成功した。

本研究の流れ図
本研究の流れ図。X線バースト現象の天体観測から得られた光量分布を、加速器実験によって決められた核反応率を基にした計算結果と比較し、観測を良く再現する結果を得た。(右上図)核燃焼経路「αp過程」の一部と、研究対象となった22Mg(α,p)25Al反応の位置。酸素(O)から塩素(Cl)までの同位体のうち、水色のタイルが安定な性質を持ち地球上に存在する核種(安定核)。白色のタイルが時間が経つと崩壊して地球上にはほぼ存在しない核種(不安定核)(提供:プレスリリースより)

22Mg(α,p)25Al反応はマグネシウム22(22Mg)の原子核がα粒子を捕獲してアルミニウム25(25Al)の原子核と陽子を作る反応だが、先行研究ではX線バーストと同じ温度に相当するエネルギーでこれを再現できず、正確な反応率を計算できなかった。そこで胡さんたちは逆に、反応生成物である25Al原子核と陽子を衝突させた。

核融合の過程では、元素同士が融合しきっていなくてもごく短時間だけ維持できる「共鳴」と呼ばれる準安定状態がある。研究チームは25Al原子核と陽子の衝突で生じる共鳴を観測し、そのうちで22Mg(α,p)25Al反応にも関わっているものを見つけて分析した。こうして、反応を逆にたどることで、X線バーストと同じ温度における原子核の状態を調べ、反応率を計算することに成功した。

測定された弾性・非弾性散乱の断面積スペクトル
今回測定された弾性・非弾性散乱の断面積スペクトル。ケイ素26原子核の構造に由来する多数の共鳴が観測された。それぞれの共鳴に書かれている数字と符号は、ケイ素26の励起エネルギー(MeV)と、共鳴の量子状態を表すスピン・パリティ。α崩壊閾値以上のエネルギーに存在する共鳴は、本研究のターゲットである22Mg(α,p)25Al反応に寄与する

実験結果をもとに導出された天体核反応率
実験結果をもとに導出された天体核反応率(天体での反応の起こりやすさ)。過去の理論・実験研究で評価された反応率には何桁もの食い違いがあった。今回の研究は、最新の先行研究(Randhawa et al. (2020))と比較的近い値を示しているが、より精度が良く、外挿に頼らない反応率の導出に成功した。(右下の小図)重要な天体温度における値の詳細比較

こうして得られた反応率を元に、X線バーストの現場における核融合によるエネルギー生成を再現するモデルを作ったところ、このモデルで生じるX線の光量は過去に観測されたX線バーストGS 1826-24およびSAX J1808.4-3658のものをよく再現していた。

22Mg(α,p)25Al反応は、X線バーストにおけるrp過程のほんの1ステップに過ぎない。技術開発を進めて他の反応も検証できるようになれば、宇宙における元素合成の一端を担うX線バーストの全容が解明できると期待される。