135億光年の彼方、最遠方銀河の候補
【2022年4月11日 アルマ望遠鏡/ハーバード・スミソニアン天体物理学センター】
宇宙に銀河がいつ、どのように生まれたのかを理解するために、天文学者たちははるか昔、つまりそれだけ遠方にある銀河を探し続けてきた。これまで見つかった中で最も遠い銀河は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が発見した134億光年彼方の銀河「GN-z11」だ。これ以上遠くなると、銀河から地球へ向かう光は宇宙膨張によって波長が伸び、HSTでは観測できない波長帯の赤外線になってしまう。
東京大学宇宙線研究所の播金優一さんたちの研究チームは、HSTよりも長い波長をカバーしている地上望遠鏡の観測データを用いて、GN-z11よりも遠方の宇宙に存在する銀河を探査した。「このような試みはこれまで行われてきませんでした。地上望遠鏡はHSTに比べて感度が悪く、普通は暗いと考えられている遠方銀河の探査には不向きだと思われていたためです。しかし私たちは最近の研究結果から、明るい遠方銀河も実は存在するのではないか、との仮説を立て、地上望遠鏡の画像データを使って135億光年彼方の銀河を探し始めました」(播金さん)。
播金さんたちは、すばる望遠鏡、ヨーロッパ南天天文台VISTA望遠鏡、イギリス赤外線望遠鏡、赤外線天文衛星「スピッツァー」の合計1200時間以上もの観測によって得られた70万個以上の天体データから、ろくぶんぎ座の方向に最遠方銀河の候補天体「HD1」を発見した。「何度も画像データを調べ上げ、数か月かけてやっとHD1に出会うことができました。HD1の色は赤く、135億年前の銀河の予想される特徴と驚くほどよく一致しており、見つけた時には少し鳥肌が立ちました」(播金さん)。
播金さんたちはさらにアルマ望遠鏡でHD1の分光観測を実施し、酸素原子が発する輝線が135億光年分の赤方偏移を経たものだと解釈できるシグナルをとらえた。シグナルは弱く、本物だと確証できるほどではなかったが、酸素輝線が弱いことはHD1が極めて若い宇宙に存在した証かもしれないとも考えられるという。酸素のような元素は、恒星内部の核融合で生成されてからまき散らされるというプロセスを経なければ存在しないからだ。
135億光年という距離を考えればHD1は極めて明るく、毎年100個以上のペースで恒星が誕生している計算になる。一般にスターバースト銀河と呼ばれる星形成の盛んな銀河でも、その10分の1未満のペースでしか星が生まれていない。一つの説明として、HD1には宇宙で一番最初に誕生した世代の恒星が存在するという可能性が挙げられている。このような恒星はその後の世代に比べて紫外線の放射が強いため、HD1の明るさを説明できるかもしれない。また、別の可能性として、HD1に太陽1億個分の質量を持つブラックホールが存在し、大量の物質を飲み込む過程で強烈な輝きを生み出しているという考えもある。この場合には、人類が知る最も古い超大質量ブラックホールということになる。
HD1は、今夏に始まるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の第1期観測のターゲットに選ばれている。現時点ではまだHD1が最遠方銀河だと確定してないが、JWSTによる正確な分光観測によって正体がはっきりする見込みだ。播金さんたちはHD1の他に134.4億光年彼方に存在する銀河かもしれない「HD2」もくじら座の方向に発見しており、こちらにもJWSTが向けられる。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:135億光年かなたの最遠方銀河の候補を発見
- CfA:Scientists Have Spotted the Farthest Galaxy Ever
- The Astrophysical Journal:A Search for H-Dropout Lyman Break Galaxies at z ∼ 12–16 論文
〈関連リンク〉
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