宇宙初期における銀河たちの急成長
【2020年10月30日 アルマ望遠鏡】
ほとんどの銀河は、宇宙がごく若い時期に誕生した。たとえば天の川銀河は、宇宙の誕生からわずか2億年後にあたる、現在から136億年前に形成され始めたと考えられている。ビッグバン直後の宇宙には水素とヘリウム以外の元素(重元素)がほとんど存在しなかったので、生まれたばかりの銀河もほぼ水素とヘリウムだけでできていただろう。また、現在の姿と比べればサイズは小さく、構造も単純だったはずだ。
宇宙初期に誕生した銀河の大半は、ビッグバンから10~15億年経ったころに成長期を迎えた。大量の星や星間塵、重元素の量の増加、渦巻き状の円盤構造といった現在の宇宙で見られる銀河の特徴は、この成長期に作られていったと考えられている。銀河の形成・成長史を理解するには、この初期宇宙にある銀河を観測し研究することが重要である。
仏・マルセイユ天体物理研究所のOlivier Le Fèvreさんを代表とする50人以上の研究者が参加する「ALPINE(ALMA Large Program to Investigate C+ at Early Times)」は、まさにこの初期宇宙で成長している銀河118個をアルマ望遠鏡で調査するプログラムだ。その観測により、研究者たちの想定よりもはるかに銀河が成熟していることが示された。
「これまでの研究をもとに、若い銀河には塵が少ないのではかと考えていました。しかし、私たちが調べた初期宇宙における銀河のうち約20%は、既に非常に多くの塵を含んでおり、生まれたばかりの星から発せられる紫外光の多くが星間塵によって吸収されていることがわかりました」(スイス・ジュネーブ大学 Daniel Schaererさん)。この星間塵が光を吸収する性質は、後の時代の銀河に含まれる塵とは異なることも明らかになった。
塵だけでなく、銀河の構造からも成長が進んでいることが確かめられた。多くの銀河に、渦巻銀河の前身となる回転円盤銀河へ成長する徴候が見られたのだ。予想外だったのは、銀河同士が衝突しながら成長しているにもかかわらず、規則正しい構造を維持しながら回転している銀河が多かったことである。「星で見えている銀河円盤の4倍にも至る巨大な重元素ガスが、銀河を大きく包み込みながら回転をしている構造のものも見えてきました」(デンマーク・ニールス・ボーア研究所 藤本征史さん)。
銀河がどのように成長してきたのかを完全に把握するには、多波長での研究が必要だ。研究チームは、銀河のサンプルデータを大量に集めるため、アルマ望遠鏡の電波による観測データのほか、ハッブル宇宙望遠鏡、米・ハワイのケック望遠鏡、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTなどによる可視光線のデータ、NASAの天文衛星「スピッツァー」による赤外線のデータといった、初期宇宙における銀河の多波長データを収集している。今後それらのデータの更なる解析を行って、初期宇宙における銀河進化の謎の解明に挑んでいく予定だという。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:生まれたばかりの宇宙で成熟した銀河が急速に出現していた - アルマ望遠鏡による初期宇宙にある銀河の最大規模の探索
- W. M. Keck Observatory:Galaxies In The Infant Universe Were Surprisingly Mature
- 論文:
〈関連リンク〉
- アルマ望遠鏡
- すばる望遠鏡
- ALPINE
- ALPINE[CII]Survey
- Keck Observatory
- Spitzer Space Telescope:
- HubbleSite
- VLT
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