アルマ望遠鏡が5ミリ秒角の最高解像度を達成
【2023年11月22日 アルマ望遠鏡】
天体観測において、どのくらい細かいところまで見分けることができるかという「視力」は重要なポイントだ。解像度や角度分解能と表されるこの性能は、電波望遠鏡の場合、観測に用いる周波数とパラボラアンテナ同士の距離によって決まる。アルマ望遠鏡では、観測周波数がバンド10受信機による950GHzで、アンテナ間距離が最長の約16kmのときに最高解像度が達成される。
66台のアンテナで構成されるアルマ望遠鏡のような電波干渉計では、各アンテナで受信した天体からの信号を相関器で合成する。この信号は地球大気の揺らぎの影響による観測誤差を受けているので、その誤差を取り除く必要がある。アルマ望遠鏡では、目標天体とその近くにある別の天体(較正天体)とを交互に観測し、較正天体の観測量を元に目標天体の観測誤差を補正している。
較正天体として利用されるのはアルマ望遠鏡でも点源にしか見えない一部のクエーサーだ。しかし、観測周波数が高くなるほどクエーサーは暗くなるため、較正天体を目標天体近くで見つけるのが難しくなる。また、干渉計の観測誤差も、観測周波数に比例して大きくなる。さらに、10km以上も離れた各アンテナが大気の異なる場所を通して観測すると、観測誤差はますます大きくなってしまう。このように、最高解像度を達成するうえでは観測誤差の補正が非常に困難であり、新技術の導入が必要とされていた。
国立天文台の朝木義晴さんたちのチームは、明るいクエーサーが見つかりやすい低い周波数バンドの受信機を較正天体の観測に使い、高い周波数バンドの受信機で観測した目標天体の観測誤差を補正する手法(バンド‐トゥ‐バンド)を導入して、最高解像度の達成に挑んできた。2020年には、7ミリ秒角(角度の1度の、約50万分の1)の解像度を達成している。
朝木さんたちはバンド‐トゥ‐バンド法を取り入れて、バンド10受信機と最長16kmの基線長のアンテナ配列で、1535光年彼方にある老齢の恒星「うさぎ座R」を観測した。その結果、うさぎ座Rの表面と、891GHzで明るいシアン化水素メーザーを放射するガスを、5ミリ秒角(72万分の1度)という最高解像度でとらえることに成功した。数字だけで考えると、人間の視力では1万2000に相当する解像度だ。
これまでアルマ望遠鏡では、惑星系誕生の現場である原始惑星系円盤の観測で、円盤中の空隙などを高解像度で描き出してきたが、従来このような天体は比較的近傍にある5つほどに限られていた。今回5ミリ秒角という最高解像度が実現したことにより、さらに遠くの天体まで精細に観測できるようになり、地球軌道サイズで分解できる天体数が約100倍に増加すると期待される。惑星誕生の物理環境や惑星系の多様性の起源に関する理解が一層深まるだろう。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:アルマ望遠鏡が最高解像度を達成 ― 最高観測周波数バンド10受信機と最長基線長16 kmアンテナ配列との組み合わせで
- The Astrophysical Journal:ALMA High-frequency Long Baseline Campaign in 2021: Highest Angular Resolution Submillimeter Wave Images for the Carbon-rich Star R Lep 論文
- The Astrophysical Journal Supplement Series:ALMA High-frequency Long-baseline Campaign in 2019: Band 9 and 10 In-band and Band-to-band Observations Using ALMA’s Longest Baselines 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/12/10 楕円銀河の構造が作られる現場をサブミリ波でとらえた
- 2024/10/09 ガス円盤のうねりが示す“原始惑星の時短レシピ”
- 2023/11/09 銀河中心のガスは巨大ブラックホールにほぼ飲み込まれない
- 2023/10/10 アルマ望遠鏡が惑星形成の「最初の一歩」をとらえた
- 2023/09/08 ダークマターの小さな「むら」をアルマ望遠鏡で初検出
- 2023/08/21 生命誕生などに迫る窓、アルマ望遠鏡の新受信機が試験に成功
- 2023/08/08 三つ子の赤ちゃん星にガスを届ける渦状腕
- 2022/11/01 電波望遠鏡の部品を3Dプリンターで作成
- 2022/08/10 アルマ望遠鏡、ガンマ線バーストの残光をミリ波で初観測
- 2021/11/19 124億年前の星形成銀河でフッ素を検出
- 2021/09/30 アルマ望遠鏡が初期観測から10年
- 2021/09/28 史上最古の「塵に埋もれた銀河」を131億年前の宇宙で発見
- 2021/09/10 アルマ望遠鏡バンド1受信機がファーストライト
- 2021/08/31 アルマ望遠鏡10周年、アンテナ命名キャンペーン実施中
- 2021/01/13 衝突によって星形成能力を失う銀河
- 2020/10/30 宇宙初期における銀河たちの急成長
- 2020/10/29 イオの大気の半分近くは火山由来
- 2020/10/28 シアン化水素の観測で調べる海王星の大気循環
- 2020/10/02 「塩」で解き明かす、大質量星形成のメカニズム
- 2020/09/11 3連星を取り巻く惑星系円盤の3重構造