楕円銀河の構造が作られる現場をサブミリ波でとらえた
【2024年12月10日 カブリIPMU】
宇宙に存在する銀河は、大まかに2つのタイプに分けられる。一つは私たちの天の川銀河のような円盤状の渦巻銀河で、今も星形成が起こっていて若い星々が存在する。もう一つは楕円銀河で、ガスがほとんどなく星形成が終わっているため、古い星々だけからなる。
渦巻銀河でも、中心部に存在する回転楕円体形に膨らんだ「バルジ」には古い星々が集まっていて、ガスはほとんどない。つまり、バルジの性質は楕円銀河とよく似ている。このことから、渦巻銀河はこの楕円体成分 (spheroid) と円盤成分の両方を持つ銀河であり、楕円銀河は楕円体成分だけでできた銀河だと解釈されている。だが、銀河の楕円体成分が宇宙の歴史の中でどうやって形成されたのかは謎だった。
中国科学院紫金山天文台のQing-Hua Tan(談清華)さんと仏・パリ=サクレー大学のEmanuele Daddiさんを中心とする研究チームは、サブミリ波で非常に明るく見える「サブミリ波銀河(SMG)」という銀河に着目した。SMGは初期宇宙に存在する銀河で、非常に活発な星形成が起こって大量の塵が生成されている。この塵が若い星からの紫外線を吸収して暖まり、サブミリ波を放射しているという天体だ。
研究チームでは、これまでに様々な波長でサーベイ観測が行われている「COSMOS」領域と「GOODS-South」領域の膨大な銀河をアルマ望遠鏡の過去の観測と突き合わせた「A3COSMOS」「A3GOODSS」というデータセットを使い、宇宙誕生から約16億~59億年後の時代に存在するSMGを146個見つけて、その形を詳しく調べた。この時代は宇宙の歴史の中で銀河の星形成が最も活発だった時期で、「宇宙の正午(cosmic noon)」と呼ばれている。
分析の結果、これらのSMGのほとんどで、最も強くサブミリ波を出している中心領域は非常にコンパクトで、楕円体に近い形だった。普通の渦巻銀河では、明るさ(表面輝度)の分布は中心から離れるほど指数関数的に暗くなる特徴があるが、SMGの明るさの分布はこれとは大きく異なっていた。
また、研究チームでは、これらのSMBの3次元的な形を表す指標として、最もよく合う回転楕円体の3軸の比率をモデルと比較して求めた。3軸の長さを長い順に A, B, C とすると、もし球に近ければ A≒B≒C なので C/A ≒ B/A ≒ 1 となり、円盤に近ければ A≒B>C なので C/A は小さく、B/A は 1 に近くなる。もし葉巻形に近ければ A>B≒C なので、C/A も B/A も小さくなるはずだ。
SMGの軸比の分析によれば、C/A は平均0.5ほどで、B/A は0.8くらいだった。つまり、ややつぶれたみかんのような形のものが多いことになる。また、明るいサブミリ波を出す中心領域がコンパクトなものほど C/A が大きい、つまりつぶれ方が小さく球に近いという傾向があることもわかった。これらの結果から、星形成が活発な銀河のほとんどは、本来は円盤状ではなく球に近い楕円体であることが示唆される。
さらに、今回の結果を宇宙論的構造形成の数値シミュレーションと比べて、こうした球状の構造ができるメカニズムを調べたところ、銀河に向かって冷たいガスが降着するという過程と、銀河同士が相互作用する過程が同時に起こることで形成されるらしいこともわかった。
このようなプロセスは、銀河の楕円体成分が作られた初期宇宙ではかなり一般的な事象だったと考えられるため、銀河の楕円体成分は銀河の進化とともに徐々に形成されるのではなく、初期宇宙での爆発的な星形成で直接作られるもののようだ。今回の発見によって、銀河形成の歴史をより深く理解できるようになるかもしれない。
〈参照〉
- カブリIPMU:遠方サブミリ波銀河における球状構造の形成現場を目撃
- 中国科学院紫金山天文台:紫金山天文台领衔国际研究团队发现遥远星暴星系原位核球形成机制
- Nature:In situ spheroid formation in distant submillimetre-bright galaxies 論文
〈関連リンク〉
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