124億年前の星形成銀河でフッ素を検出
【2021年11月19日 アルマ望遠鏡/ヨーロッパ南天天文台】
英・ハートフォードシャー大学のMaximilien Francoさんたちの研究チームはアルマ望遠鏡を用いて、かみのけ座の方向約124億光年の彼方に位置する(124億年前の宇宙に存在する)銀河「NGP-190387」を観測した。この銀河はヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星「ハーシェル」で発見され、非常に遠い距離にあるわりに明るい銀河として知られていた。
観測の結果、この銀河の大きなガス雲からフッ化水素(HF)が放つ電波が検出された。宇宙の歴史の中でこれほど早い時代の星形成銀河でフッ素が観測されたのは初めてだ。「フッ素は私たちが毎日使っている歯磨き粉にフッ化物の形で含まれているので、誰もが知っている元素です」(Francoさん)。
フッ素は、他のほとんどの元素と同様に星の中で作られる元素だが、これまではフッ素を生み出した天体やその生成のプロセスが正確にわかっていなかった。研究チームは今回の観測結果から、恒星の中で最も重いものの一つである「ウォルフ・ライエ星」が、この銀河のフッ素の生成場所である可能性が高いと考えている。
ウォルフ・ライエ星は、太陽の数十~200倍重く寿命がわずか数百万年という超大質量星が一生の終わりを迎えている天体だ。非常に重く明るいため、星の外層が自分自身の強い光の圧力で吹き飛ばされ、星の「中身」がむき出しになっているという特徴がある。
ウォルフ・ライエ星が宇宙のフッ素の供給源である可能性は以前から指摘されていたが、初期宇宙でウォルフ・ライエ星がフッ素の生成にどの程度の役割を果たしたかについては、これまであまり知られていなかった。ウォルフ・ライエ星以外でフッ素を生み出す天体としては、たとえば太陽の数倍の質量を持つ重い星が晩年を迎えた「漸近巨星分枝星(AGB星)」が脈動することでフッ素が放出される、といった仕組みが考えられている。
しかし研究チームは、AGB星からフッ素が放出されるまでには星の誕生から数十億年かかることもあるため、宇宙誕生から14億年しか経っていないNGP-190387にこれほどの量のフッ素が存在する理由をAGB星で説明するのは難しいと考えている。
「この銀河ではわずか数千万年から数億年で、現在の天の川銀河の星々と同じレベルのフッ素量になったのです。これはまったく予想外の結果です。今回の測定により、20年にわたって研究されてきたフッ素の起源にまったく新しい制約が加わりました」(ハートフォードシャー大学 小林千晶さん)。
今回の観測によって、NGP-190387が並外れて明るく見えるのは地球とこの銀河の間に別の重い銀河があり、これが重力レンズ効果を引き起こしてNGP-190387が増光しているためであることも明らかになった。フッ素を検出できたのも、手前にある銀河の重力でNGP-190387が放つ電波が増幅されたおかげというわけだ。
「アルマ望遠鏡は冷たい星間ガスや塵から放出される電波に感度があります。一方で次世代の大型光学赤外線望遠鏡を使えば、NGP-190387に含まれる星の光を観測することができ、この銀河の星の元素組成に関する重要な情報を得ることができるでしょう」(ヨーロッパ南天天文台 Chentao Yangさん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:アルマ望遠鏡、124億年前の星形成銀河にフッ素を検出
- ESO:Astronomers make most distant detection yet of fluorine in star-forming galaxy
- Nature Astronomy:The ramp-up of interstellar medium enrichment at z > 4 論文
〈関連リンク
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