アルマ望遠鏡バンド1受信機がファーストライト
【2021年9月10日 アルマ望遠鏡】
アルマ望遠鏡では、観測する電波を10のバンド(周波数帯)に分けており、それぞれのバンドに特化した専用の受信機がアンテナに搭載されている。これまでは、バンド3からバンド10まで(84GHzから950GHzまで)の8種の受信機が使用されてきた。
さらに、台湾中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)を中心に、日本の国立天文台、カナダ・ヘルツベルグ天体物理学研究所、アメリカ国立電波天文台、チリ大学による国際協力で、およそ10年をかけてバンド1受信機の開発が進められてきた。バンド1受信機では、全受信機の中で最も低周波数となる周波数35~50GHz(波長では6mm~8.5mm)の電波が観測できる。
8月14日、バンド1受信機を搭載したアルマ望遠鏡が月に向けられ、初観測「ファーストライト」が実施された。その後、17日にはバンド1受信機を搭載した2台のアンテナによる初の干渉計試験にも成功し、27日には初めて天体電波スペクトルの取得にも成功した。一連の試験観測では、金星や火星といった太陽系内の天体から、星が誕生する現場である「オリオンKL領域」や年老いた星「おおいぬ座VY星」など天の川銀河内の天体、さらに遠方クエーサー「3C 279」まで、近距離から遠距離にわたる様々な天体からの電波をとらえ、受信機の性能が確認された。
「最も困難だったことは、関連するスタッフの調整を全てリモートで行う必要があったことです。ファーストライトに向けた調整は、パンデミック下にある異なる大陸をつないで行いました」(合同アルマ観測所シニアエンジニア Giorgio Siringoさん)。
低周波をとらえるバンド1受信機が全アンテナに搭載されれば、遠方銀河から届く大きく赤方偏移した電波も観測できるようになる。また、星が誕生する領域での磁場の測定や惑星誕生現場の観測などでも活躍が期待されるなど、様々な分野における研究に大きな進展が見込まれる。「バンド1受信機は、惑星形成の現場に散らばっている数cmサイズの塵や小石のようなものから放射される電波を検出できます。これにより、塵が成長して惑星が出来上がる過程を研究できるのです」(バンド1受信機プロジェクトサイエンティスト Hsi-Wei Yenさん)。
受信機は2023年10月開始のアルマ望遠鏡科学観測サイクル10での利用開始を目指し、製造の最終段階に入っている。
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