クエーサーになる直前のブラックホールを初期宇宙でとらえた
多くの銀河の中心に存在する「超大質量ブラックホール」のうち、可視光線で非常に明るい活動的な天体を「クエーサー」と呼ぶ。最も古い(=最も遠い)クエーサーは、赤方偏移がz=7.642(ビッグバンから約6億7000万年後)という初期宇宙で発見されている(参考:観測史上最も遠いクエーサーを発見)。
超大質量ブラックホールは太陽の数百万~数十億倍もの質量を持つが、宇宙の誕生からわずか数億年の間にどうやってこんな巨大なブラックホールができるのかは、天文学の大きな謎となっている。
現在有力な理論では、超大質量ブラックホールは星形成が活発な「スターバースト銀河」の中心部で、塵やガスに隠された状態で誕生するとされる。スターバースト銀河では通常の銀河の100~1000倍ものペースで新たな星が誕生しては超新星爆発を起こしており、星の内部で作られた重元素を塵やガスの形で大量に含む。その後、ブラックホールは成長し、周囲にできた降着円盤が強力なX線や紫外線を放射してガスや塵を吹き飛ばすことで、クエーサーとして観測されると考えられる。
これまで、スターバースト銀河とクエーサーはどちらも、ビッグバンから7億~8億年後の初期宇宙で少数ながら見つかっていたものの、スターバースト銀河の中心核で超大質量ブラックホールが生まれてクエーサーになるというシナリオを裏付ける観測的証拠は見つかっていなかった。
デンマーク・コペンハーゲン大学の藤本征児さんを中心とする研究チームは、この2種類の天体をつなぐ「ミッシング・リンク」かもしれない天体「GNz7q」を発見した。GNz7qが見つかったのは、サーベイ観測プロジェクト「GOODS」の観測領域の一つ「GOODS-North」と呼ばれるおおぐま座の領域だ。GOODSはハッブル宇宙望遠鏡(HST)などの宇宙望遠鏡や大型地上望遠鏡で、北天・南天の2つの領域の長時間・多波長観測を行うプロジェクトである。
GNz7qの赤方偏移はz=7.1899で、ビッグバンから約7億5000万年後の時代に当たる。HSTの観測により、GNz7qではきわめて狭い領域から紫外線と赤外線が放射されていることがわかった。これは銀河全体からの放射ではなく、ブラックホールに落ち込む物質からの光だと考える方がつじつまが合う。
藤本さんたちの解析によると、GNz7qの母銀河では1年に太陽1600個分もの新しい星を生み出す爆発的な星形成が起こっている。また、GNz7qの光は塵に吸収されて強い赤化を受けている。さらに、紫外線は検出されているのにX線は全く見られない。通常の巨大ブラックホールで紫外線もX線も観測されるのとは対照的な特徴だ。
こうした特徴は、中心ブラックホールがまだ若くて質量が大きくない成長途中の状態にあると考えれば説明できる。つまり、X線源となる降着円盤の中心部はまだ隠されていて、紫外線を放射する円盤の外側部分だけがあらわになりつつある段階だというのだ。
「この天体のX線から電波にいたる電磁波スペクトルの特性は、理論シミュレーションによる予測と非常によく一致していました。つまり、GNz7qが、このような宇宙初期の爆発的星形成銀河の中心部で急速に成長しているブラックホールの最初の観測例であることを示唆しています。GNz7qは、宇宙初期で見つかっている超巨大ブラックホールの先駆体だと考えられます」(藤本さん)。
GNz7qは、超大質量ブラックホールの誕生の謎を解く鍵となるだけでなく、これまでで最もよく研究されてきたGOODS-North領域で見つかったという点でも注目すべき天体だ。
「GNz7qの発見は、大発見がしばしば私たちの目の前に隠れているということを示しています。GOODS-Northの狭いサーベイ領域からGNz7qが見つかったのは、まぐれだとは思えません。むしろ、こうした天体は予想以上に多いのかもしれません」(コペンハーゲン大学 Gabriel Brammerさん)。
〈参照〉
- NASA:Hubble Sheds Light on Origins of Supermassive Black Holes
- 国立天文台:131億光年かなたに潜む超巨大ブラックホールの前兆を発見
- Nature:A dusty compact object bridging galaxies and quasars at cosmic dawn 論文
〈関連リンク〉
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