129億年前の超大質量ブラックホール付近に熱いガスを発見
【2025年3月12日 アルマ望遠鏡】
銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールに大量のガスや塵が落ち込むことによって強烈なエネルギーを放射し非常に明るく輝く天体は「クエーサー」と呼ばれ、遠方の宇宙で多く観測される。クエーサーを理解するうえでは、その中心付近の様子を知ることが重要だが、領域が小さいことに加えてガスの運動が複雑であるために、通常の観測で細かく知ることは難しい。また、ブラックホールを取り巻くガスや塵の円盤が地球から見て横向きである場合には、可視光線やX線では塵に遮られて観測ができない。
超大質量ブラックホールの想像図。中心にあるブラックホール付近から放たれるX線によって、周囲を取り巻くガスが熱されている。その円盤を横から観測すると、可視光線やX線では暗くなり、ブラックホールは観測の目から隠されてしまう(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Tadaki et al.)
北海学園大学の但木謙一さんたちの研究チームは高いエネルギー状態にある一酸化炭素分子からの電波放射に着目し、129億光年彼方に位置する(129億年前の宇宙に存在する)太陽の10億倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールを、アルマ望遠鏡を用いて超高解像度で観測した。その結果、ブラックホールの近傍数百光年という領域に存在するガスの加熱状態を世界で初めて映し出すことに成功した。
高エネルギー状態にある一酸化炭素分子からの電波放射が強く検出されるには、ガスが相当高温でなければならないが、そのような加熱は若い星が放つ紫外線だけでは説明できない。但木さんたちは、ブラックホールを取り巻く降着円盤や、その上層にあるコロナと呼ばれる領域から放射される強烈なX線がガスを加熱し、通常の星形成領域では得られないほどの高いエネルギー状態に押し上げていると考えている。また、クエーサーが放出する激しい風や衝撃波もガスを加熱している可能性も考えられ、クエーサーの中心部は複数のメカニズムが入り混じる激しい環境であると示唆される。
今回用いられたアルマ望遠鏡による超高解像度の電波観測という手法は、可視光線やX線では観測できないブラックホールを探る強力な手段となる。今後、同様の観測を広範囲に行うことで、宇宙初期における超大質量ブラックホールの実態に迫ることができると期待される。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:129億年前の超巨大ブラックホール付近の“熱いガス”を発見: 宇宙初期の隠されたブラックホール探査に新たな可能性
- Nature Astronomy:Warm gas in the vicinity of a supermassive black hole 13 billion years ago 論文
〈関連リンク〉
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