M87のジェットから強力なガンマ線フレアを検出

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楕円銀河M87の中心部で2018年にガンマ線フレアが検出された。銀河中心の超大質量ブラックホールが活動期を迎えたものとみられ、超高エネルギー電磁放射のメカニズムの解明などが進展することが期待される。

【2024年12月19日 EHT JAPAN

おとめ座の方向約5500万光年の距離にある楕円銀河M87の中心には、超大質量ブラックホールが存在する。国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope; EHT)」は2017年に実施した観測により、ブラックホールが作る影「ブラックホールシャドウ」をとらえた

2017年当時、EHTの観測と協調して世界中の望遠鏡が様々な波長帯でM87の中心ブラックホールを観測し、このブラックホールが非常に「おとなしい」状態であったことが報告された。さらに翌2018年、地上と宇宙から17を超える観測装置が参加して2回目となる多波長合同観測が実施され、このときにM87の中心部で強力なガンマ線フレアがとらえられた。

2018年の観測装置
2018年のM87多波長観測キャンペーンに参加した観測装置の一覧(提供:EHT Collaboration, Fermi-LAT Collaboration, H.E.S.S. Collaboration, MAGIC Collaboration, VERITAS Collaboration, EAVN Collaboration、以下同)

フレアはわずか3日間という極めて短時間の現象だったが、350ギガ電子ボルトを超えるガンマ線フラックスが約36時間で2倍以上増加し、X線フラックスも2017年の約2倍となった。検出された強力なガンマ線のエネルギーは可視光線の数千億倍もあり、膨大なエネルギーが一気に解放されたものとみられる。

「M87の大質量ブラックホールはとても気分屋で、いつフレアが起こるか事前に予測がつきません。2017年と2018年で静穏期と活動期という全く対照的なデータが得られたことは、大質量ブラックホールの活動サイクルを紐解く上で重要な手がかりとなります」(名古屋市立大学 秦和弘さん)。

「大質量ブラックホールのジェットにおいて、超高エネルギーの粒子がどのように加速されるかは長年の謎です。今回ガンマ線フレアの発生時期にEHTで事象の地平線スケールを直接撮影できたことで、フレアの起源に関する理論モデルを検証することが初めて可能になりました」(オランダ・アムステルダム大学 Sera Markoffさん)。

2018年のM87の画像とガンマ線フレアの測定データ
2018年の多波長合同観測で撮影されたM87のジェットなどの画像。下部はガンマ線望遠鏡によって検出されたフレアの測定データ

東京大学宇宙線研究所の川島朋尚さんは国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイII」を用いたシミュレーションを行い、多波長観測データとの比較から次のように推察している。「2018年のフレアは、超高エネルギーガンマ線で特に強い増光を示しました。これまでのM87の『おとなしい』時期と同じ放射領域で超高エネルギー粒子が更なる加速を受けたか、あるいは異なる放射領域で新たな加速が起こった可能性も考えられます」。

また、ガンマ線を検出したチェレンコフ望遠鏡「MAGIC」チームのメンバーである東京大学宇宙線研究所のDaniel Mazinさんは以下のように話している。「フレアの期間は放出領域の大きさにおおよそ比例します。ガンマ線の急速な変動はフレア領域が非常に小さいことを示すもので、中心ブラックホールのわずか10倍程度の大きさしかありません。興味深いことに、ガンマ線で観測された急激な明るさの変化は他の波長では検出されませんでした。フレア領域が複雑な構造をしており、波長によって異なる性質を持つことを示唆しています」。

多波長合同観測の結果としてはこれまでに、ジェットが2017年と異なる方向に噴出していることや、リング構造の最も明るい方向が2017年から変化していたことなどが報告されている。「ジェットの噴出方向、EHTで観測されるリングの輝度分布、ガンマ線活動の3つの要素について、さらに長期的な変化を観測して組み合わせて分析することで、超高エネルギー放射発生メカニズムの理解が大きく進展するでしょう」(工学院大学教育推進機構 紀基樹さん)。

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