天の川銀河中心の大質量ブラックホールの観測データを再解析
【2024年11月1日 国立天文台JASMINEプロジェクト】
天の川銀河の中心には、太陽質量の約400万倍もの超大質量ブラックホール「いて座A*」(Sgr A*)が存在する。2017年にイベント・ホライズン・テレスコープ・コラボレーション(EHTC)がいて座A*を観測し、ブラックホールを取り巻くリングをとらえたとして、2022年にその画像を公表した。リングの直径はいて座A*の質量から一般相対性理論によって計算される「ブラックホールシャドウ」のサイズと一致するとされている。
国立天文台の三好真さんたちの研究チームがEHTCの観測データを独自に再解析したところ、リング像ではなく東西に伸びた姿が得られた。これはブラックホールの周りを光速の約60%程度で高速回転する降着円盤の姿と解釈できるという。EHTCのリング像とは全く異なる結果だが、三好さんたちは、EHTCの結果は撮像解析プロセスにおける問題があったために生じた、誤ったものだと指摘している。
さらに研究チームは、EHTCがいて座A*の大きさを60マイクロ秒角と仮定して一部の観測データの振幅を較正するなどしたために、得られたものが純粋ないて座A*の像ではなくなった可能性や、様々な撮像パラメータで得た撮像結果の中で最も多く現われた形を最終像として選び出すという解析プロセスが、リング像という正しくない結果を生み出した可能性も指摘している。
今回の発表を受けてEHTCは、改めて2022年発表のブラックホールシャドウの画像を支持する立場を表明し、今後最新の観測結果の分析を行って、さらに忠実度の向上した画像を公表する予定であるとコメントしている。
〈参照〉
- 国立天文台JASMINEプロジェクト:銀河中心の大質量ブラックホール ― 観測データ、再解析、高速回転する降着円盤か?
- MNRAS:An independent hybrid imaging of Sgr A* from the data in EHT 2017 observations 論文
- Event Horizon Telescope:Response to An Independent Analysis of EHTC Imaging of Sgr A* by Miyoshi et al. 2024
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/12/19 M87のジェットから強力なガンマ線フレアを検出
- 2024/09/06 宇宙の夜明けに踊るモンスターブラックホールの祖先
- 2024/09/05 ブラックホール周囲の降着円盤の乱流構造を超高解像度シミュレーションで解明
- 2024/08/02 X線偏光でとらえたブラックホール近傍の秒スケール変動
- 2024/06/24 「宇宙の夜明け」時代に見つかった双子の巨大ブラックホール
- 2024/04/03 天の川銀河中心のブラックホールの縁に渦巻く磁場構造を発見
- 2024/03/15 初期宇宙の巨大ブラックホールは成長が止まりがち
- 2024/03/08 最も重い巨大ブラックホール連星を発見
- 2024/03/05 超大質量ブラックホールの周りに隠れていたプラズマガスの2つのリング
- 2024/01/24 初撮影から1年後のM87ブラックホールの姿
- 2023/12/22 初期宇宙にも存在したクエーサー直前段階の天体「ブルドッグ」
- 2023/12/08 天の川銀河中心の100億歳の星は別の銀河からやってきたか
- 2023/11/09 銀河中心のガスは巨大ブラックホールにほぼ飲み込まれない
- 2023/10/02 ジェットの周期的歳差運動が裏付けた、銀河中心ブラックホールの自転
- 2023/09/25 銀河中心ブラックホールのジェットが抑制する星形成
- 2023/09/19 クエーサーが生まれるダークマターハローの質量はほぼ同じ
- 2023/09/15 巨大ブラックホールに繰り返し削られる星
- 2023/08/09 電波銀河の巨大ブラックホールに落ち込む水分子
- 2023/07/24 成長中の巨大ブラックホール周辺を電波で観測
- 2023/07/04 129億年前の初期宇宙でクエーサーの親銀河を検出