天の川銀河中心の100億歳の星は別の銀河からやってきたか
【2023年12月8日 すばる望遠鏡】
天の川銀河の中心には太陽の400万倍の質量をもつ超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」が存在する。いて座A*が存在することやその質量は、銀河の中心近くにある星々の動きを30年にわたって観測した結果から確認されたものだ。この観測研究に対しては2020年のノーベル物理学賞が授与されている。
大質量ブラックホールの近くではとても強い重力がはたらいているため、星の材料となるガスや塵が集まることができず、星が形成されることはない。つまり、いて座A*の近くに星々が存在すること自体が大きな謎でもある。
この謎を解決するため、宮城教育大学の西山正吾さんたちの研究チームは、いて座A*のすぐ近くにある星「S0-6」をすばる望遠鏡で観測した。S0-6は暗く、多くの星が混み合った領域にあるため、研究に必要なデータの収集には8年間をかけた計10回の観測を要した。
最初に確認したのは、S0-6が見かけ上ではなく本当にいて座A*の近くにあるということだ。西山さんたちは2014年から2021年にかけてS0-6の運動を測定し、S0-6がいて座A*の強い重力を受けている、つまり実際にS0-6がいて座A*のすぐ近くにあることを確かめた。
研究チームは次に、S0-6の明るさや温度、星に含まれる鉄の量などを調べて、その観測値を理論的なモデル計算と比較した。その結果、S0-6が100億歳以上の老いた星であることがわかった。
最後に、S0-6に含まれる様々な元素の量が調べられた。星の内部で合成される元素の種類や、それらがどの時期にどれくらい作られるのかは銀河によって異なるので、元素の量を調べることで星の生まれ故郷がわかる。研究の結果、S0-6に含まれる元素の比は、天の川銀河の近くにある小マゼラン雲やいて座矮小銀河の星ととても似ていることが明らかになった。S0-6の生まれ故郷が、過去に天の川銀河の周りを回っていた矮小銀河である可能性が高いことを示す結果だ。「S0-6の生まれ故郷の銀河は天の川銀河に取り込まれ、S0-6は天の川銀河の中心にある大質量ブラックホールまで100億年以上の長い旅を経てきたのでしょう」(西山さん)。
一方、S0-6が天の川銀河で生まれた可能性もゼロではない。S0-6の特徴は、天の川銀河の中心から6000光年に広がる「バルジ」と呼ばれる構造にある、少し変わった星とも似ているからだ。「S0-6は、本当に天の川銀河の外で生まれたのか。仲間はいるのか、それとも一人旅だったのか。さらなる調査で、大質量ブラックホールの近くにある星の謎を解き明かしたいと思います」(西山さん)。
〈参照〉
- すばる望遠鏡:終着点はブラックホール? − 100 億年の宇宙の旅
- Proceedings of the Japan Academy, Series B:Origin of an orbiting star around the galactic supermassive black hole 論文
〈関連リンク〉
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