原始銀河団でブラックホール活動により一斉に活動を停止した銀河

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110億年前の宇宙にある原始銀河団の観測から、超大質量ブラックホールの活動により銀河が一斉に成長を終える様子がとらえられた。銀河団の歴史を解き明かす上で重要な研究成果だ。

【2024年12月24日 早稲田大学

銀河団を構成する数百個の銀河には様々なタイプのものが含まれるが、星形成活動を終え年老いた星でできている巨大楕円銀河の存在割合が高めであることが多い。このような銀河で星形成が止まった原因としては、銀河中心に位置する超大質量ブラックホールの持続的な活動により、100億年以上前に星の材料となるガスが銀河に供給されなくなってしまった、というシナリオが有力だ。

こうした説を検証するには、100億年以上前の銀河団、つまり宇宙の「古代都市」にあたる「原始銀河団」を観測する必要がある。早稲田大学の嶋川里澄さんたちの研究チームは以前の研究で、すばる望遠鏡を用いて複数の原始銀河団を観測し、猛烈な勢いで星形成が進む成長中の巨大銀河や、楕円銀河に移り変わろうとする巨大銀河が集まっていること、巨大銀河の半数近くで超大質量ブラックホールの活動があることを明らかにした。

嶋川さんたちは今回、最もよく研究されている原始銀河団の一つ、うみへび座の方向110億光年彼方にある「スパイダーウェブ原始銀河団」に属する銀河をジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で観測し、巨大銀河の星形成活動と、銀河中心の超大質量ブラックホールを分離して調べることに初めて成功した。

スパイダーウェブ原始銀河団
JWSTがとらえたスパイダーウェブ原始銀河団。近赤外線の波長帯で従来の10倍以上高い空間分解能のおかげで個々の銀河がはっきりとらえられ、内部の様子まで調べることができる(提供:Shimakawa et al.、以下同)

データを解析したところ、活動的な超大質量ブラックホールが存在する銀河からは星形成に起因する光が出ていないことがわかった。超大質量ブラックホールが活動する銀河では星形成が著しく妨げられていることを示唆しており、現在の銀河団に存在する巨大楕円銀河の形成要因が過去の超大質量ブラックホールの活動によるものであったとする理論を強く裏付ける結果だ。

銀河の比較
銀河団中の巨大銀河を超大質量ブラックホール活動の有無で分けた時の、水素再結合線(星形成の指標)の強さの比較。ブラックホールが活動的でない銀河(黄色のマーク)では外側で銀河の成長を示す星形成起因の光が見えるのに対して、ブラックホールが活動的な銀河(紫色のマーク)では星形成の兆候が見られず、銀河が成長を終えている様子がみられる

銀河と超大質量ブラックホールは、大きさにして人と細胞くらいの違いがあるが、互いに干渉しあいながら成長すると考えられている。今回明らかになった活動的な超大質量ブラックホールによる星形成抑制は、この「共進化」のプロセスを裏付ける観測的証拠となるものである。

「観測した銀河団は、私たちがすばる望遠鏡などを使って10年以上かけて調査してきた研究対象です。今回JWSTで得られた最新のデータから、これまで積み上げてきた銀河形成の理解や予測に対する『答え合わせ』ができるようになってきました。今後も解析を進め、残る問題を紐解きたいと思います」(嶋川さん)。

「今回の研究は、過去のすばる望遠鏡による観測がなければ実現しませんでした。現在すばる望遠鏡で開発中の広視野補償光学装置『ULTIMATE-Subaru』が実現すると、より効率よく多数の原始銀河団の研究ができるようになり、銀河団環境における銀河形成史の理解が大きく進むと期待しています」(国立天文台ハワイ観測所 小山佑世さん)。

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