115億光年彼方、爆発的星形成銀河の素顔
【2025年4月4日 東北大学】
銀河団の中心に見られる、質量が非常に大きい巨大楕円銀河は、天の川銀河の数百倍から数千倍のペースで星形成が進む「爆発的星形成銀河」、あるいは「モンスター銀河」と呼ばれる銀河が大きく成長したものと考えられている。このような巨大楕円銀河の進化を理解するうえでモンスター銀河の観測は欠かせないが、猛烈な星形成活動によって生成される大量の塵(ダスト)によって銀河の姿が隠されているため、銀河の内部構造やガスの運動状態を詳しく調べるのは難しい。
名古屋大学の梅畑豪紀さんたちの研究チームは、塵による減光の影響が比較的少ない赤外線の波長で星からの放射をとらえられるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)と、塵に隠された星形成活動や分子・原子ガスの分布や運動状態をミリ波・サブミリ波の波長で調べられるアルマ望遠鏡を用いて、みずがめ座の方向約115億光年彼方の原始銀河団の中心に位置するモンスター銀河「ADF22.A1」を観測した。
ADF22.A1はサブミリ波で非常に明るく、特に塵に隠された星形成活動が盛んであることが知られていたが、その構造や活発な星形成が引き起こされているメカニズムについては、これまでわかっていなかった。梅畑さんたちの観測により、星と塵からの連続光放射だけでなく、ガスの運動状態が星や塵の画像と同等の高い解像力でとらえられ、これまで隠されてきたモンスター銀河の素顔が明らかになった。
モンスター銀河「ADF22.A1」。(左)JWSTがとらえた恒星成分の擬似カラー画像、(右)アルマ望遠鏡がとらえた塵の成分(右)。大量の塵の背後に巨大な渦巻銀河の姿が浮かび上がっている(提供:東北大学リリース、以下同)
解析の結果、ADF22.A1は渦巻銀河の形状をしていて、同時代の同程度の質量を持つ銀河の典型的なサイズの2倍以上と非常に大きいことがわかった。また、秒速約530kmという非常に速い速度で回転するガス円盤を持つことも示された。銀河の内部に棒状構造があること、銀河の中心に超大質量ブラックホールが存在することも明らかになっている。
アルマ望遠鏡の観測による、ADF22.A1のガスの分布(左)とガスの運動状態(右)。正(赤)は私たちから遠ざかる運動、負(青)は反対に近づく運動を表し、全体として高速で回転するガス円盤であることがわかる
ADF22.A1の角運動量が大きい(回転の勢いが強い)ことは同時代の銀河の中でも突出した特徴であり、この銀河で特異な事態が起こっていることがうかがえる。過去の研究で、ADF22.A1は「宇宙網(コズミックウェッブ)」と呼ばれる、銀河と銀河をつなぐように帯状に広がった水素ガスから成る長大な構造の中で成長している銀河であることがわかっている。研究チームでは、宇宙網から大量のガスが回転しながらADF22.A1へ落ち込んでいることで、大きな角運動量が生み出されていると考えている。同時にガスは星形成活動の燃料でもあることから、ガスの流入が活発な星形成活動を引き起こしているとみられる。
ADF22.A1は高速回転する渦巻銀河だが、現在の宇宙の銀河団の中心に存在する巨大楕円銀河は、ランダムな運動成分が卓越している。今回の観測結果は、ADF22.A1のような銀河が100億年という長い年月をかけて、他の銀河との衝突合体などを繰り返しながら巨大楕円銀河へと進化することを示唆するものだ。今後のアルマ望遠鏡とJWSTの協力により、巨大楕円銀河の祖先とみられるモンスター銀河の理解がさらに進むと期待される。
〈参照〉
- 東北大学:115 億光年かなたに“巨大渦巻”を発見~世界最先端の望遠鏡で見えてきたモンスター銀河の素顔~
- PASJ:ADF22-WEB: A giant barred spiral starburst galaxy in the z= 3.1 SSA22 protocluster core 論文
〈関連リンク〉
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