初期宇宙の「見えない」銀河をアルマで多数発見
【2019年8月9日 アルマ望遠鏡】
NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)は、初期宇宙に存在する誕生直後の銀河や星形成の活発な銀河を観測する上で中心的な役割を果たしている。しかし、HSTで観測できる光の波長は可視光線から近赤外線までの範囲に限られるため、どんな銀河でもHSTで撮影できるわけではない。
たとえば、活発な星形成が起こっている銀河では、寿命の短い大質量星がたくさん生まれ、それらが超新星爆発を起こして死ぬというサイクルが繰り返されるため、終末期の星や超新星爆発から放出された塵が銀河の中に大量に含まれている。このような銀河では、星から出た光は塵に吸収され、暖められた塵から赤外線として再放射されるので、中間赤外線や遠赤外線と呼ばれる波長の長い赤外線でなければ銀河自体が「見えない」場合がある。
さらに、こうした銀河が初期宇宙に存在していると、宇宙膨張によって光の波長が引き伸ばされるので、さらに波長の長い電磁波でないと見えない可能性がある。そのため、星形成の盛んな銀河を遠い過去の宇宙で見つけるためには、電波望遠鏡を使い、赤外線よりさらに波長の長いサブミリ波で観測する必要がある。
東京大学・国立天文台のTao Wangさんたちの研究チームは、過去にHSTが「CANDELS」というサーベイ観測プロジェクトで撮影した領域に注目した。「CANDELS」は2010年から2013年にかけて、HSTが延べ4か月分もの撮影時間を費やして観測したHST史上最大の観測プロジェクトだ。WangさんたちはCANDELSの撮影領域の中から、HSTの画像には写っておらず、NASAの赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」の画像には写っている正体不明の天体を63個選び出し、アルマ望遠鏡で詳細な観測を行った。
その結果、63個の天体のうち39個でサブミリ波が検出された。観測データから、この39個はいずれも星形成が活発に行われている巨大銀河で、約110億年前より昔の初期宇宙(赤方偏移zが3より大きな時代)に存在することが明らかになった。
今回見つかった巨大星形成銀河の質量は太陽の数百億〜1000億倍で、天の川銀河とほぼ同じかやや小さい程度だが、110億年前より昔の宇宙では巨大な銀河といえる。また、これらの銀河で起こっている星形成のスピードは天の川銀河の100倍に達することがわかった。
今回見つかった巨大星形成銀河の数と観測領域の広さから計算すると、こうした銀河は天球上で1平方度(満月約5個分)当たりに約530個も存在することになる。過去には、今回の銀河よりさらに10倍も星形成率が高い「モンスター銀河」も発見されているが、今回の銀河の個数密度はこうしたモンスター銀河より100倍も高い。このことから、宇宙誕生から20億〜30億年後の時代に存在する巨大星形成銀河のほとんどは、実は可視光線や近赤外線では見えていないと考えられる。
研究チームでは、今回見つかった初期宇宙の巨大銀河は現在の宇宙に存在する巨大楕円銀河の祖先ではないかと推定している。巨大楕円銀河は銀河団の中心に存在していて、その質量は太陽の数兆倍にも及ぶ。
こうした巨大銀河が110億年前より昔の宇宙にこれほどたくさん存在するという事実は、これまでの銀河形成や銀河進化の理論ではまったく予想されていなかったものだ。現在広く受け入れられている、ダークマター(暗黒物質)によって宇宙の構造が形成されるというモデルでは、ビッグバンから20億〜30億年しか経っていない時代にこれほど多くの巨大天体を作ることはできない。
「今回のアルマ望遠鏡の成果は、宇宙や銀河の進化に関する私たちの理解に挑戦状をたたきつけたといってもいいでしょう。銀河の進化を包括的に理解するためには、巨大楕円銀河の成り立ちを考えることが欠かせません。アルマ望遠鏡での更なる詳細観測に加え、近い将来に打ち上げが期待されるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や赤外線天文衛星『SPICA』でこの謎に挑みたいと考えています」(Wangさん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:アルマ望遠鏡、39個の「見えない銀河」を捉える -宇宙進化理論に謎を突きつける楕円銀河の祖先たち
- Nature:A dominant population of optically-invisible massive galaxies in the early Universe 論文
〈関連リンク〉
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