銀河スケールに広がる壮大なガスの噴水

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銀河団の中心に位置する巨大楕円銀河の中心領域で、超大質量ブラックホールにガスが引き込まれ、それが噴水のように激しく放出されるという一連の様子がはっきりととらえられた。

【2018年11月15日 アルマ望遠鏡ヨーロッパ南天天文台

米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのGrant Tremblayさんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡とヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLT、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」を使って、みずがめ座の方向約10億光年彼方の銀河団「Abell 2597」の中心に位置する巨大楕円銀河とその周辺を観測した。

銀河団「Abell 2597」の中心にある巨大楕円銀河周辺
銀河団「Abell 2597」の中心にある巨大楕円銀河周辺の擬似カラー画像。(黄)アルマ望遠鏡で観測された冷たいガス、(赤)VLT望遠鏡で観測された温かい水素ガス、(紫)チャンドラX線望遠鏡で観測された高温の電離ガス(提供:NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA)

その結果、巨大楕円銀河の中心部に存在する超大質量ブラックホールによって引き込まれた大量の冷たい分子ガスが、噴水のように外へ激しく噴き出している様子がはっきりととらえられた。星の材料であるガスが銀河中心のブラックホールによって循環するという一連のサイクルに関する、初めての明確な証拠である。

Abell 2597の中心にある巨大楕円銀河の想像図
Abell 2597の中心にある巨大楕円銀河の想像図。中心の超大質量ブラックホールからガスが噴き出している様子を描いている(提供:NRAO/AUI/NSF; D. Berry)

研究チームは、超大質量ブラックホールを含むこの系全体で自己制御が効いていると考えている。ブラックホールに向かって落下するガスのエネルギーが噴水の「ポンプ」の動力源となり、高速の高温ガスジェットが放出される。放出されたガスは銀河を取り囲む球状構造の「ハロー」のガスとぶつかり、冷えて減速すると、銀河本体や超大質量ブラックホールの重力に引かれて再びブラックホールへと引き込まれる。このサイクルが起こっているということだ。

また、巨大楕円銀河の最も深い領域に、太陽30億個分の質量をもつ大量の分子ガスが10万光年の範囲にわたって細長く伸びていることもわかった。

Tremblayさんたちは、アルマ望遠鏡を使った過去の観測で、ブラックホールへ向かって落ち込むガスの動きを測定していた。また、VLTの観測装置「MUSE」では、銀河から出ていく温かい電離ガスの存在もとらえていた。今回の観測では、高温の電離ガスとほぼ同じ分布をもつ冷たい分子ガスの塊がいくつも発見され、両者の関係を詳細に比較して調べることができた。さらに、チャンドラの観測で、もっと高温のガスの様子もとらえることができる。

今回の研究は、X線・可視光線・電波を使った多波長観測により、超大質量ブラックホールを含む一つの系について包括的な理解を進めるものだ。観測結果は高温電離ガスと低温の分子ガスの表裏一体の関係性を裏付けるものであり、銀河スケールの噴水の中で、高温の電離ガスが低温の分子ガスを殻のように覆って激しく移動しているというアイディアを支持する成果である。

今回の研究から明らかになったガスの循環プロセスは、銀河の進化にとって基本的なものであり、他の多くの銀河でも同様に起こっていると推測されている。

〈参照〉

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