アルマ望遠鏡が明かす銀河内の「星の工場」

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アルマ望遠鏡による高解像度の観測から、これまで実証されていなかった進化の進んだ大きい銀河内部での星形成の謎が解き明かされようとしている。

【2019年1月18日 アルマ望遠鏡

宇宙に存在する銀河の大きさや形は様々であり、その銀河の中で星が作られる期間や作られ方も多様である。過去数十年にわたる研究からは、銀河の大きさによって銀河内部での星の作られ方に違いがあることが明らかになっている。なかでも、大きくて進化の進んだ銀河では星の材料となるガス雲、いわゆる「星の工場」の効率が悪いため星形成が穏やかになるという理論研究があるものの、実際の観測によって実証するまでには至っていない。

約10万光年の大きさを持つ銀河全体に対して、ガス雲のサイズは数十~数百光年と非常に小さい。しかし、高い感度と解像度を併せ持つアルマ望遠鏡であれば数百万光年~数千万光年の距離にある銀河の中の個々のガス雲の分布も描き出すことができる。その能力を活かし、正面から観測できる渦巻銀河をターゲットとした研究プロジェクト「PHANGS-ALMA」が進められている。

PHANGS-ALMAでは現在までに計750時間の観測を行い、74個の渦巻銀河から3万個のガス雲のデータを取得した。研究チームはこれらのデータをもとに、銀河の大きさや年齢、内部のガスの運動によって星形成のサイクルがどのように変化するのかに迫ろうとしている。

PHANGS-ALMAで撮影された6つの渦巻銀河
PHANGS-ALMAで撮影された6つの渦巻銀河。星の材料となるガスが放つ電波をとらえており、渦巻状に広がるガス雲の詳細な様子までがわかる(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); NRAO/AUI/NSF, B. Saxton)

星形成の現場では、星の誕生をきっかけにガス雲が破壊される現象が起こっていることも知られている。若くて巨大な星から放出される強烈な光やガス(星風)、あるいは短寿命な巨大星の死である超新星爆発によって、ガス雲が壊されるのだ。PHANGSの観測によって、生まれたばかりの星たちが周囲のガス雲をすぐに壊してしまうことも確かめられた。

「星形成活動の多様性は、星の材料である低温で高密度なガス雲そのものの性質にあると私たちは考えています。研究チームでは、異なるタイプの銀河でガス雲破壊のプロセスがどのように進むのかを調べています。これが、星形成効率にとって大きな影響を与えるかもしれないのです」(カナダ・アルバータ大学 Erik Rosolowskyさん)。

研究チームではアルマ望遠鏡の他に、ヨーロッパ南天天文台の8m望遠鏡VLTのカメラMUSEを使ったPHANGS-MUSE計画、ハッブル宇宙望遠鏡を使ったPHANGS-HST計画も進行中である。これらの観測を総合することで、星の材料である低温ガスの分布とその動き、さらに高温ガスと星の分布までをとらえ、銀河の中での星の作られ方の違いとその原因を解き明かそうとしている。

「天文学研究では、宇宙の進化をそのまま観測することはできません。でも、異なるサイズや年齢の銀河に含まれる何万個もの星形成の現場を観測して、銀河がどのように進化するかを推測することはできます。これこそが、PHANGS-ALMAの真の意義なのです」(Rosolowskyさん)。

アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡が撮影した渦巻銀河M74
うお座の渦巻銀河M74。アルマ望遠鏡(オレンジ)とハッブル宇宙望遠鏡(青)のデータを合成した擬似カラー画像(提供:NRAO/AUI/NSF, B. Saxton: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); NASA/Hubble)

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