電波銀河の巨大ブラックホールに落ち込む水分子
【2023年8月9日 国立天文台VERA】
活動銀河の一種である電波銀河では、中心から数万光年という遠くまで達する明るい電波ジェットがしばしば見られる。こうしたジェットの噴出には莫大なエネルギーが必要で、そのエネルギー源は銀河中心の超大質量ブラックホールに落下する星間ガスの重力エネルギーだと考えられている。
おとめ座の方向約1億光年の距離にある「NGC 4261」も2本の双極ジェットを持つ電波銀河で、中心には超大質量ブラックホールが存在すると推定されている。1992年にはハッブル宇宙望遠鏡が、この銀河の中心部に存在するガス円盤を高い分解能で撮影したことでも有名だ。
しかし、NGC 4261の中心ブラックホールから数光年というごく狭い範囲で、実際に円盤のガスがブラックホールに落下している様子は、これまで観測されていなかった。
大阪公立大学の澤田-佐藤聡子さんたちの研究チームは、日中韓の電波望遠鏡を連携させる「東アジアVLBI観測網(EAVN)」のネットワークを使って、NGC 4261のVLBI観測を行った。この観測には、国立天文台の「VERA」4局と茨城県の高萩32m電波望遠鏡、韓国の「韓国VLBIネットワーク(KVN)」の3局が参加した。
観測の結果、NGC 4261の中心から1光年未満というごく狭い範囲に、「水メーザー」という強い電波輝線を放射する水分子ガスが密集しているのが見つかった。水分子ガスの分布は銀河中心の電離ガス円盤と同じ位置にあり、水分子ガスは円盤の内部にあるとみられる。
また、水メーザー輝線のドップラー効果から、この水分子ガスが銀河中心に向かって運動していることも突き止められた。この結果は、円盤のガスがブラックホールに落下してジェットのエネルギー源となっていることを示す初めての証拠だ。
研究チームは、今回の観測結果と、これまでに得られている電離ガスや中性水素ガス、分子ガスの観測データから、NGC 4261中心部の構造も推定している。銀河中心のブラックホールを取り巻くガス円盤に垂直な方向に2本の電波ジェットが噴出していて、水分子ガスはガス円盤のごく内側にあり、円盤の中で乱流を起こしながらブラックホールへと落下しつつあるようだ。
現在、EAVNに参加する各国では観測網の性能向上が進められていて、日韓合同VLBI観測網「KaVA」では4局目のアンテナを韓国の平昌に建設中だ。「VERA」でも新たな高感度受信機を開発している。今後さらに感度や分解能などが向上すれば、NGC 4261のブラックホールにガスが降着する仕組みがさらに詳しく明らかになると研究チームは期待している。
〈参照〉
- 国立天文台VERA:超巨大ブラックホールに引き寄せられる水分子のガス
- PASJ:Very long baseline interferometry imaging of H2O maser emission in the nearby radio galaxy NGC 4261 論文
〈関連リンク〉
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