電波からガンマ線まで、空前の多波長観測でM87のブラックホールジェットを撮影
【2021年4月19日 EHT-Japan】
2017年4月、地球上の8つの電波望遠鏡をつないだイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)が、おとめ座の方向約5500万光年の距離に位置する楕円銀河M87を観測し、史上初めて超大質量ブラックホールの「影」をとらえた。このとき、EHTと協調する形で計19の望遠鏡や観測網がM87に向けられていて、EHTでは観測できなかったブラックホールのジェットをとらえた。ジェットはブラックホールに引き寄せられたガスの一部が超高速で細長く放出される現象で、その仕組みはまだ完全には解明されていない。
動員された望遠鏡(関連リンク参照)は、電波から高エネルギーガンマ線に至るまで、天文学で使われるあらゆる波長をカバーし、視野もブラックホール近傍にズームインするものから銀河全体をとらえるものまで様々である。各望遠鏡はほぼ2017年4月前後の数か月のうちにM87中心部を撮影し、ジェットが根元付近の約0.3光年から5000光年ほどまで広がっている姿を多波長で描き出した。これはジェットを伴う超大質量ブラックホールの同時観測キャンペーンとしては史上最大規模のものだ。
M87の超大質量ブラックホールは様々な波長で激しい光度変化を示す活動銀河核としても知られるが、今回の一斉観測において、特にX線やガンマ線といった高エネルギーの電磁波による観測では、ブラックホールの活動が静穏だったことが判明した。一方、ジェットの根元をとらえた電波観測では、ジェットの噴出方向がかつてとは大きく変化していることが明らかになった。
研究チームは、今回の結果を理論面から分析するためのシミュレーションも実施した。EHTは電波の眼で超大質量ブラックホール周囲のリングをとらえたが、このリングは全ての波長で同じように輝いているわけではないようだ。従来の理論では、M87中心部のガンマ線は、電波と同じブラックホール付近から放射されていると考えられていたが、シミュレーションと研究チームの議論によれば、どうやらガンマ線はもう少し広がった領域で放射されているのだという。
電波からガンマ線までの同時観測データ全てを説明するには、ジェットやブラックホールに落下するガス流の構造、そして一般相対性理論などの詳細な物理プロセスを取り入れた更なる計算が必要だとわかった。今後、天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」や富岳を用いて、ガスの流れやジェットの時間経過に伴う変化による効果を取り入れた大規模シミュレーションが実施される。
今回発表された成果は、ブラックホールから噴出するジェットの構造と成因を明らかにするための第一歩だ。EHTの観測は2018年にも行われており、2021年現在は参加望遠鏡を3局増やして観測を実施中である。「EHTチームと世界の様々な波長の望遠鏡チームが一致団結し、32の国と地域から総勢760名を超える研究者の協力によって成し遂げられた合同成果です。今後もEHTと同期した多波長合同観測を継続し、大質量ブラックホールの活動性やジェットの謎を解明していきたいと考えています」(国立天文台水沢VLBI観測所 秦和弘さん)。
〈参照〉
- EHT-Japan:多波長同時観測でさぐるM87巨大ブラックホールの活動性と周辺構造 - 地上・宇宙の望遠鏡が一致団結 -
- 国立天文台 / CfCA / アルマ望遠鏡 / 総合研究大学院大学 / 広島大学 / 東京大学宇宙線研究所 / 山口大学 / 計算基礎科学連携拠点
- Event Horizon Telescope:Telescopes Unite in Unprecedented Observations of Famous Black Hole
- The Astrophysical Journal Letters:Broadband Multi-wavelength Properties of M87 During the 2017 Event Horizon Telescope Campaign 論文
〈関連リンク〉
- EHT-Japan
- Multi-wavelength Observations of M87 During the 2017 Event Horizon Telescope Campaign 一般公開されている、今回の研究で利用されたデータ
- アテルイII
- 理化学研究所 計算科学研究センター
- 観測に参加した望遠鏡一覧
- アストロアーツ:
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