アルマ望遠鏡がとらえた小マゼラン雲のふんわり分子雲
【2025年2月28日 九州大学】
星の誕生現場である分子雲は、天の川銀河では一般的に幅0.3光年ほどのフィラメント状の構造をしている。太陽や太陽系も、細長いフィラメント状分子雲の分裂で作られた分子雲コアから誕生したと考えられている。しかし、初期の宇宙に存在する分子雲も同様の特徴があったのかどうか、それらがどのようにして作られて、どんな形をしているかについては未解明のままだった。
こうした初期宇宙の様子を調べるうえで格好の天体が、天の川銀河から20万光年しか離れていない「お隣さん」の小マゼラン雲だ。小マゼラン雲には重元素が少なく、約100億年前の宇宙環境に非常に近い状態にあるので、“昔の環境”で星がどのように生まれるかを調べるのに適している。
小マゼラン雲(下)と大マゼラン雲(上)(撮影:chi_muroさん)。画像クリックで天体写真ギャラリー「小マゼラン雲」の検索結果ページへ
九州大学の徳田一起さんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡で観測された、小マゼラン雲内にある「太陽の20倍以上の質量をもつ巨大な星の赤ちゃん」が生まれつつある領域の分子雲17か所のデータを解析し、約100億年前に相当する環境にある分子雲の性質を詳しく調べた。
研究対象となった分子雲。(背景)ヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星「ハーシェル」がとらえた小マゼラン雲の全体像。(丸印)アルマ望遠鏡で観測した位置、(四角)一酸化炭素が放つ電波の観測からとらえた分子雲の拡大図。(黄色の四角)フィラメント状構造が見られるもの、(青色の四角)ふんわりした形を持つもの(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tokuda et al., ESA/Herschel)
その結果、調査対象となった分子雲のおよそ6割でフィラメント状の構造が見られた一方、残りの4割ほどの分子雲は“ふんわり”と広がった形をしていることが判明した。さらに、フィラメント状分子雲の方がふんわりした分子雲よりも温度が高いことも明らかになった。温度の違いは、分子雲が形成されてから経過した時間の違いなどを反映しているとみられる。
小マゼラン雲の分子雲の例。(左)フィラメント状分子雲、(右)ふんわりした分子雲(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tokuda et al.)
今回の研究により、大昔の宇宙ではフィラメント状分子雲が必ずしも一般的ではなく、その形を大きく変化させている兆候が初めて示された。フィラメント状の形が保たれる場合には、細長い“紐”に沿って分裂が起こりやすくなり、太陽のような比較的小さな恒星を多く生み出す環境が整うが、フィラメントが維持されない場合は、太陽のような星が生まれにくいと考えらえれる。今回の結果は、重元素の存在量を含めた環境がフィラメント構造を長期間保つ上で影響力をもち、結果として太陽系のような惑星系の形成に重要な役割を果たしている可能性を示唆するものである。
今後、小マゼラン雲内の分子雲の観測結果と、天の川銀河内をはじめとするより重元素量の多い環境にある分子雲の観測結果を詳細に比較することで、星の誕生現場となる分子雲の形成と時間変化についての理解が深まると期待される。
〈参照〉
- 九州大学:ALMAがとらえた小マゼラン雲のふんわり分子雲 ~大昔の星の保育園は変幻自在か?~
- The Astrophysical Journal:ALMA 0.1 pc View of Molecular Clouds Associated with High-Mass Protostellar Systems in the Small Magellanic Cloud: Are Low-Metallicity Clouds Filamentary or Not? 論文
〈関連リンク〉
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