天の川銀河の中心から遠い星ほど重元素は少ない
【2023年9月12日 東京大学大学院理学系研究科・理学部】
ビッグバン直後の宇宙には、水素・ヘリウム・リチウムという軽い元素しか存在しなかった。その後の時代に誕生した恒星の内部で核融合反応によって重い元素が作られ、これが超新星爆発などでばらまかれて次の世代の恒星の材料となる、という過程で、銀河の中では徐々に金属量(重元素量)が増えていく。このように、銀河の内部で重元素の組成が変わっていくことを銀河の「化学進化」と呼ぶ。
一般に、たくさんの星が生まれて重元素が頻繁に合成・放出される場所ほど化学進化は速いので、銀河ごとに金属量は異なり、一つの銀河の中でも場所によって金属量には違いがある。私たちの天の川銀河でも、中心に近い領域ほど星形成が活発で、重元素の多い星が多く生まれている。
銀河内の金属量の違いを調べるには、若い星の金属量を観測するのが適している。恒星は誕生した後に銀河の中を運動して場所が変わるからだ。そのため、年齢が数千万年から数億年である「ケフェイド変光星(セファイドなどとも呼ぶ)」が金属量を調べるのによく使われる。これまでに天の川銀河のケフェイドを観測した結果からは、銀河中心に近い内側から外側に向かって金属量が下がっていく「金属量勾配」がみられることがわかっている。
太陽系は天の川銀河の中心から約2万6000光年の位置にある。これまでに行われた金属量の観測は、銀河中心から2万光年以上外側にあるケフェイドを使ったものがほとんどだった。天の川銀河の中心付近は星間物質の影響で可視光線が1万分の1から1000億分の1以下にまで減光してしまい、可視光線での分光観測が難しいためだ。
東京大学の松永典之さんたちの研究チームは、星間物質による減光が比較的小さい赤外線で分光観測を行い、天の川銀河の中心から1~2万光年の位置にある16個のケフェイドのスペクトルを得た。
観測には、チリ・ラスカンパナス天文台のマゼラン望遠鏡(口径6.5m)に設置されている近赤外線高分散分光器「WINERED」が使われた。WINEREDは東京大学と京都産業大学のチームによって開発された装置で、波長が900~1350nmの近赤外線をきわめて高い分解能で分光できる。
松永さんたちは、近赤外線の領域にある鉄の吸収線を使ってケフェイドの金属量を測定した。その結果、ほぼ全ての星が太陽の1~2倍の金属量を持つことがわかった。さらに、銀河の中心に近いケフェイドほど金属量が高いという勾配もみられた。この勾配は、銀河中心から2万光年以上離れた銀河の外側で観測される金属量勾配をそのまま内側へと延長したような単純な傾向を持っていることが判明した。
一般に、銀河の中心に近い場所ほど星形成が活発で化学進化が進みやすいので、中心部に向かって金属量が高くなるのは自然な結果だ。しかし、実際の銀河では重元素に富んだガスが超新星爆発で銀河の外側へ吹き飛ばされたり、銀河円盤の外から金属量の低いガスが落ちてきたりして、銀河の内外で物質がやりとりされながら化学進化が進む。にもかかわらず、今回の結果では、天の川銀河の内側から外側まで広い範囲で単純な金属量勾配がみられたことから、こうした傾向を持つようになった理由はなぜか、という疑問が出てくる。
研究チームでは、今後は鉄以外の重元素の組成も調べることで、銀河円盤全体の金属量勾配を説明できるような銀河進化のシナリオを描き出すことができると期待している。
〈参照〉
- 東京大学大学院理学系研究科・理学部:意外と単純そうな天の川の金属量勾配―高感度赤外線分光観測で探る天の川円盤最内縁部の化学組成
- The Astrophysical Journal:Metallicities of Classical Cepheids in the Inner Galactic Disk 論文
〈関連リンク〉
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