太陽系が安全地帯に運ばれたのは、天の川銀河の変化のおかげ
【2024年12月9日 神戸大学】
現在の太陽系は天の川銀河の中心から約2万7000光年の位置にあるが、太陽系が誕生した当時はもっと銀河中心に近い、約1万7000光年の位置にあった可能性が高いと考えられている。
その根拠の一つは太陽系の化学組成だ。太陽系に存在する重元素(炭素・酸素・鉄など、水素とヘリウム以外の元素)の量は、太陽の周辺にある同年齢の恒星に比べて異常に高いことが知られている。重元素の多い星は銀河の中心付近で誕生する傾向があるため、太陽も銀河の内側の領域で誕生した可能性があるのだ。そうだとすると、太陽系は誕生から現在までの46億年で銀河内を大きく移動してきたことになる。しかし、この大移動が天の川銀河の進化の中でどのように起こったのかはわかっていない。
銀河中心に近い領域は星形成が活発で、超新星爆発やガンマ線バーストが頻繁に発生するため、放射線にさらされるリスクが高く、生物には危険な環境だ。一方、銀河の外側は比較的安全な領域だと言える。こうした環境の違いが生命の進化にどんな影響を与えたのかを理解するには、太陽系の移動経路と、移動途中での周辺環境の移り変わりを詳しく解析する必要がある。
鹿児島大学天の川銀河研究センターの馬場淳一さんたちの研究チームは、天の川銀河の「時間変化」を考慮した数値シミュレーションを行って、太陽系が通った可能性のある経路や、移動中に経験した周辺環境の変化を詳しく調べた。
その結果、太陽系を天の川銀河の内側から現在の位置まで運んだ可能性のあるメカニズムが、大きく2種類あることが明らかになった。
一つは、天の川銀河の「棒構造」の回転が減速することで太陽系が移動するというしくみだ。天の川銀河は棒渦巻銀河だと考えられているが、この棒状構造(バー)は、銀河全体を取り囲むダークマターと相互作用して回転がだんだん遅くなる。この減速の影響で太陽系は徐々に外側へ移動する。
もう一つは、銀河の渦巻腕が変化することで太陽系が移動するというしくみだ。銀河の星々の公転速度は渦巻腕の回転速度とは違っているため、恒星は銀河円盤の中を公転しながら渦巻腕に突入したり出て行ったりする。そこで、銀河の渦巻構造が消滅・再形成したり、巻き込み角度が変わったりすると、やはり太陽系が効率的に外側へと運ばれるという。
詳しい解析の結果、この2つのしくみを組み合わせた進化モデルが、最も効率的に太陽系を移動させることがわかった。
馬場さんたちはまた、太陽系が移動中に経験した環境変化について、宇宙放射線量の変化や彗星が太陽系内に流入する数の移り変わりを調べた。その結果、銀河中心部から現在の位置へと移動したことで、放射線リスクは大幅に軽減されることがわかった。彗星の流入数については、誕生当初の太陽系には多くの彗星が流入して水や有機分子が地球に供給され、生命の材料となったとみられる一方、太陽系がほぼ現在の位置に来たころには流入量は減って、安定した環境が維持されたと考えられることが示された。
馬場さんたちは、天の川銀河の中で生命に適している領域(=「銀河ハビタブル領域」)を考えるというこれまでのアプローチだけでなく、銀河の中を恒星系が移動しながら経験する環境変化も考慮した、「生命の存在に適した『移動経路』」(=「銀河ハビタブル軌道」)という新たな考え方が、銀河の動力学と惑星系の進化や居住可能性の関係を理解する上で重要だとしている。
〈参照〉
- 神戸大学:銀河ダイナミクスが導く太陽系の旅路
- The Astrophysical Journal Letters:Solar System Migration Points to a Renewed Concept: Galactic Habitable Orbits 論文
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