宇宙で最初の星はひとつではなかった
【2023年3月30日 カブリIPMU】
ビッグバンで宇宙が誕生した後、宇宙最初の星である「初代星」が出現するまでの数億年間は、私たちに身近な元素のほとんどは存在していなかった。というのも、水素やヘリウムより重い元素のほとんどは、恒星の内部で進む核融合反応によって作られるからだ。
初代星が誕生したことにより、その内部で水素やヘリウムから炭素や酸素といった元素が初めて合成された。さらに、星の一生の最期に起こる超新星爆発によって星間空間に元素がばら撒かれ、次の世代の星や銀河の素材を供給している。しかし、いまだに初代星を直接観測することはできておらず、その性質は謎に包まれたままだ。
唯一の観測的な手がかりは、天の川銀河で生き残っている古い星々だ。その中でも水素やヘリウムより重い元素(天文学ではまとめて「金属」と呼ぶ)をわずかにしか含まない「超金属欠乏星」は、初代星が残した元素から作られたと考えられるため、その組成を調べることで、元素を作った初代星の質量や超新星爆発についての手がかりが得られるはずだ。
そこで、東京大学のTilman Hartwigさんたちの研究チームは、機械学習を用いて、超金属欠乏星の元素組成データから初代星の性質を解明する新しい手法を開発した。Hartwigさんたちは、単独の初代星が超新星爆発した場合と、複数が超新星爆発した場合で次世代の恒星に引き継がれる元素組成パターンを理論的に予測し、これを学習した人工知能におよそ450もの超金属欠乏星の元素組成データを分類させた。
その結果、およそ68%の超金属欠乏星の元素組成が、複数の初代星からの影響で説明できることが示された。初代星の大半がまとめて誕生していた可能性が高いことを示唆するものだ。
今回の成果は、初代星が複数同時にまとめて生まれたかどうかという「マルチプリシティ」に関する初の定量的な制限となる。「初代星の『マルチプリシティ』は数値計算で予測されていましたが、観測的に検証する方法はこれまでありませんでした。私たちの研究結果は、初代星が小さな星団で同時に複数生まれて、初期の星間空間の化学進化に複数の超新星が影響を及ぼしたことを示唆しています」(Hartwigさん)。
「今回開発したアルゴリズムにより、大容量の天文データを解析する新手法が得られました。人工知能による天文データの解析は、ごく最近世界的にも盛んになってますが、『銀河考古学』に応用されたのは初めてです。初代星が近接連星系だった場合、ビックバン直後の重力波源として、今後衛星や月面からの観測で見つかるかもしれません」(英・ハートフォードシャー大学 小林千晶さん)。
〈参照〉
- カブリIPMU:人工知能が見つけた、最初の星はひとりではなかった
- The Astrophysical Journal:Machine learning detects multiplicity of the first stars in stellar archaeology data 論文
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