中性子星の合体でレアアースが作られていた

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中性子星の合体により、レアアースのランタンとセリウムが生成されていることが、観測とシミュレーションを比較することで確認された。

【2022年11月2日 国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト

地球や生物を構成する元素の多くは、太陽のような恒星の中で核融合反応によって合成されたことがわかっている。だが、通常の核融合では鉄よりも重い金属を作ることができない。そのような重い元素がどこで生成されたかについては議論が続いているが、有力な候補として挙げられているのが中性子星の合体だ。

中性子星は質量の大きな恒星が寿命を迎えた後に残る超高密度な天体だが、2つの中性子星が互いの周りを回る連星を形成し、少しずつ近づいて最後は重力波を出しながら衝突合体することがある。このとき中性子星の一部が放出され、鉄より重い元素を合成すると予想されてきた。また、この現象に伴ってキロノバと呼ばれる爆発的な発光現象が観測されると考えられていた。

中性子星合体とキロノバの想像図
中性子星合体とキロノバの想像図(提供:東北大学)

2017年8月、中性子星の合体に伴う重力波が初めて検出された。「GW170817」と名付けられたこの重力波の発生源は直後の観測で突き止められ、可視光線と赤外線でキロノバも確認されている。この中性子星合体で理論予想どおりに重元素が合成されているかを調べるため、観測されたキロノバのスペクトルが分析されてきた。

個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるため、スペクトルの中で暗くなっている波長(吸収線)を調べることによって中性子星合体の際に放出された元素が特定できる。ただし、物質が高速で吹き飛んでいるためドップラー効果で波長がずれてしまい、吸収線を同定するのは難しい。そもそも、鉄より重い元素がどのような吸収線を示すかについてはデータが少ないという問題もある。

これまでに可視光線のスペクトルからストロンチウムが検出されているが、赤外線域にも吸収線らしき特徴が未解明のまま残されていた。そこで、東北大学の土本菜々恵さんたちの研究チームは重元素の吸収線を網羅的に調べた上で、国立天文台の天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」でキロノバの環境を模した数値シミュレーションを行い、そのスペクトルを調べた。

キロノバのスペクトルと本研究で得られたスペクトル
GW170817に伴うキロノバのスペクトル(灰色)と本研究で計算されたスペクトル(青色)。左の数字は中性子星合体後の日数。破線で吸収線の特徴を、同じ色でそれらの特徴を作る元素名を記載。スペクトルは見やすいように縦軸方向にずらしてある。観測スペクトルの1400nm付近、1800~1900nm付近は地球大気の影響を受けている(提供:Domoto et al.)

その結果、ランタンとセリウムという金属元素がキロノバの赤外線スペクトルに吸収線を作ることがわかった。計算されたスペクトルの特徴は、GW170817に伴うキロノバで観測されたスペクトルとも一致していて、両元素が確かに生成されていたことを示唆する。ランタンとセリウムはともに、レアアース(希土類元素)と呼ばれる工業的に重要な金属元素のグループに属する元素だ。中性子星の合体でレアアースの生成が確認されたのは、初めてのことである。

今後は重力波の観測によってさらに多くの中性子星の合体が見つかることが期待され、今回確立した手法と合わせて元素合成に関する理解が大きく進むだろう。

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