初期宇宙のさざ波か、銀河が作る巨大な泡「ホオレイラナ」
【2023年9月11日 ハワイ大学】
ビッグバンから数分後の宇宙では、物質は原子核と電子がばらばらになったプラズマの状態で、光子ともさかんに相互作用をしていた。このようなプラズマでは、物質同士が集まろうとする重力と、反発して広がろうとする圧力とが合わさり、プラズマの密度ゆらぎが「音波」となってプラズマの中を伝わっていた。これを「バリオン音響振動(BAO)」と呼んでいる。
その後、ビッグバンから約38万年後に原子核と電子が結合して中性原子ができると、それ以降の物質は重力で集まる一方となり、BAOは消えた。BAOの「波紋」は、最大半径としては38万年間にプラズマの音波が進む距離まで広がっていたはずで、現在の宇宙では半径約5億光年に対応する。実はこのBAOの痕跡は現在の宇宙に残されており、たくさんの銀河同士の間隔を統計的に調べると、半径約5億光年に対応する銀河のペアがわずかに多いことが知られている。
米・ハワイ大学のR. Brent Tullyさんたちの研究チームは、約5万6000個の銀河までの距離を高い精度で決定したカタログ「Cosmicflows-4」を2022年に公開した。このカタログを編纂する過程で、天の川銀河から約8億2000万光年の距離にある「うしかい座超銀河団」付近を中心として、ちょうど半径5億光年ほどの球殻(シェル)状に銀河が多く分布していることに気づいた。
Tullyさんたちは、この特徴的な分布の中心位置を求め、中心からどの方向についても、約5億光年の距離で銀河の個数密度が高くなっている、つまりこの構造が3次元のシェル状であることを確認した。
研究チームは、この巨大な泡のような構造を「ホオレイラナ(Hoʻoleilana)」と命名した。この名前はハワイの創世神話を歌う古謡「Kumulipo」の、「深い闇の中から目覚めのささやき声が聞こえる」という一節から採ったという。研究チームでは、ホオレイラナは人類が初めて目にするBAOの直接の痕跡ではないかと考えている。
「私たちはこのような構造を探していたわけではありませんでした。ホオレイラナは非常に巨大で、私たちが解析していた空の範囲を超えています。銀河の密度の高い部分としては予想よりも密集していて、直径10億光年というのも理論的な予測を超えています。もしこの構造の形成や進化が理論通りだとすると、このBAOは予想よりも近い距離にあり、宇宙の膨張率が予想より高いことを示唆しています」(Tullyさん)。
Tullyさんたちは2014年に、私たちの天の川銀河を含む巨大な構造「ラニアケア超銀河団」を発見している(参照:「直径5億光年、天の川銀河が属する新たな超銀河団「ラニアケア」」)。今回見つかったホオレイラナはラニアケア超銀河団に隣接していて、サイズはさらに大きい。
ホオレイラナのシェル構造は、銀河のほとんどない「ボイド」や、それをとり囲む「フィラメント」「ウォール」といった構造の典型的な大きさよりもはるかに大きい。銀河のサーベイ観測「CfAサーベイ」で1989年に発見された、有名な「CfAグレートウォール」や、「スローン・デジタルスカイサーベイ(SDSS)」で見つかった「スローン・グレートウォール」、ヘルクレス座超銀河団など、これまでに見つかっている様々な大規模構造の多くがすっぽり含まれるような、超巨大な構造だ。
〈参照〉
- University of Hawaiʻi:Vast bubble of galaxies discovered, given Hawaiian name
- CEA Université Paris-Saclay:Ho'oleilana : un fossile datant d'une époque proche de la naissance de l'Univers
- The Astrophysical Journal:Ho'oleilana: An Individual Baryon Acoustic Oscillation? 論文
- The Astrophysical Journal:Cosmicflows-4 関連論文
〈関連リンク〉
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