銀河の形状と分布で検証する初期宇宙のゆらぎ
【2023年12月27日 カブリIPMU】
現在広く受け入れられている標準宇宙理論は、宇宙マイクロ波背景放射や宇宙の大規模構造の精密観測と解析によって、宇宙の主要なエネルギー成分として冷たいダークマター(Cold Dark Matter; CDM)とダークエネルギー(Cosmological Constant; Λ)の2つを持つ「Λ-CDM(ラムダ・シーディーエム)モデル」として確立されている。このモデルでは、インフレーション期と呼ばれる初期宇宙の急加速膨張期に、星や銀河、銀河団、さらにそれらの空間分布といった、宇宙のあらゆる構造の種である「原始ゆらぎ」が生成されたと考えられている。
原始ゆらぎの性質は初期宇宙の物理によって決定されるが、最も標準的で最も単純なインフレーションモデルである「単一場インフレーション」で生成される原始ゆらぎの場合、データが平均値の付近に集積し、その平均値を中心に左右対称となるような「正規分布(ガウス分布)」に非常に近い統計性を持つと予言されている。このガウス分布からの「ずれ」(原始非ガウス性)が観測データから有意な水準で検出されれば、初期宇宙における原始ゆらぎの生成プロセスの理解が飛躍的に進展し、「宇宙がどのように始まったか」という疑問の解明に繋がると期待される。
原始ゆらぎは生成直後は非常に小さいが、重力不安定によって増幅され、非一様性が大きくなる。最初は小さな領域のゆらぎが重力に引かれて成長し、星や銀河が形成され、現在観測されている銀河の空間分布「宇宙の大規模構造」が作られたと考えられる。この大規模構造を調べることにより、原始ゆらぎの性質に迫る研究が行われた。
独・マックス・プランク天体物理学研究所の栗田智貴さんとカブリIPMUの高田昌広さんは、銀河の空間分布を示す分光データと個々の銀河形状をとらえた撮像データを組み合わせ、銀河の形状パターンに含まれる主要な統計的情報の抽出を可能にする「銀河形状パワースペクトル」の測定手法を開発した。この手法を、世界最大規模の銀河サーベイである「スローン・デジタル・スカイ・サーベイ」で得られた約100万個の銀河に適用して、銀河形状パワースペクトルを測定した。
その結果、1億光年以上離れた2つの銀河の向きが統計的に有意に揃っていることが検出された。見かけ上独立で因果関係がないように見える遠い銀河間に、相関が存在することを示す結果である。この相関はインフレーション理論が予言するものであり、銀河の形状を通してその予測が確認されたことを意味する。さらに、最も標準的なインフレーション理論が予言する相関と矛盾しないこと、つまり原始ゆらぎが非ガウス性を示さないことも確認された。
「銀河の形状を用いて初期宇宙の物理を探る研究は先例がほとんどなく、データ解析に至る一連の研究過程は試行錯誤の連続でしたが、それらをやり遂げることができて嬉しく思っています。この成果は、『銀河の形状を用いた宇宙論』という新たな研究分野を切り拓く第一歩となると考えています」(栗田さん)。
〈参照〉
- カブリIPMU:世界初!銀河形状の解析から初期宇宙を検証
- Physical Review D:Constraints on anisotropic primordial non-Gaussianity from intrinsic alignments of SDSS-III BOSS galaxies 論文
〈関連リンク〉
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