すばる望遠鏡の超広視野多天体分光器PFSが本格始動

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すばる望遠鏡に2400個の「目」からなる複眼「超広視野多天体分光器」が装備された。多数の天体の光を同時にとらえ色分けして観測することが可能で、8m級望遠鏡としてはすばる望遠鏡が世界で唯一だ。

【2025年1月17日 カブリIPMU

すばる望遠鏡の超広視野多天体分光器(Prime Focus Spectrograph; PFS)は、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)を中心とした日本や世界各国の20以上の研究機関が参加して、15年の歳月をかけて開発、製作されてきた新装置だ。いよいよ来月から本格運用が始まる。

「15年間の準備がやっと今実を結びました。プロジェクトが長くかかると、ときとして科学的な価値を失ってしまうことがありますが、PFSはむしろ今こそサイエンスの機が熟してきました。銀河の誕生から宇宙の運命まで、目を見張るサイエンスを見ていくのが楽しみです」(PFSプロジェクト主任研究員、カブリIPMU/米・カリフォルニア大学バークレー校 村山斉さん)。

PFSは直径およそ1.3度にわたるすばる望遠鏡の主焦点の広大な視野内に、約2400本の光ファイバーを配置している。それぞれを観測したい天体に向けて、多数の天体からの光を同時に分光装置に取り込み、可視光線全域と近赤外線の一部にわたる波長域のスペクトルを同時に取得することができる。PFSが稼働することで、すばる望遠鏡の分光観測の効率が飛躍的に向上する。

PFSを構成する機器の配置箇所と4台の分光器
(上段)PFSを構成する機器の配置箇所を正面から見たもの、(下段)合計約2400本のスペクトルを同時観測する4台の分光器(提供:PFS Project/Kavli IPMU/NAOJ)

PFSを用いた観測では、今後数年で計360夜分の望遠鏡時間を活用し、広大な宇宙における数百万個の銀河の分光が行われる。この観測で得られたデータから、宇宙の3次元地図を作成して時間変化を追うと、宇宙の加速膨張を操るダークエネルギーの正体を探ったり、138億年の宇宙史における銀河の形成過程を明らかにしたりできると期待される。

「PFSデータを活用し、ダークエネルギーがアインシュタインの宇宙定数かどうかを検証し、ニュートリノの質量を測定する予定です。予想外の発見があるかもしれません。日本発のデータで天文学・物理学の発展に貢献できるのが楽しみです」(カブリIPMU 高田昌広さん)。

「PFSは、星形成が宇宙で始まった約100億年前から現在までの、銀河の形成と進化の全歴史にわたる調査を可能にします。この装置の開発は長く困難な道のりでしたが、その成果が実を結んだことに深い満足を覚えます。その科学的成果もまた、きっと素晴らしいものになると確信しています」(米・プリンストン大学 James Gunnさん)。

アンドロメダ座大銀河の領域にある天体をPFSで観測したデータの例
アンドロメダ座大銀河M31の領域にある天体をPFSで観測したデータの一例。(左)すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」でとらえたM31の画像に、個々の天体を観測するために配置したPFSのファイバーの位置を示した画像。記号の違いは観測対象の違い(丸が研究対象、四角と三角は較正天体)、色の違いは4台の分光器各々に対応する。(右)実際に観測した天体の拡大画像とファイバーを通して取得されたスペクトルの例。画像クリックで表示拡大(提供:PFS Project/Kavli IPMU/NAOJ、M31:HSC Project/NAOJ)

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