ガイアとすばる望遠鏡で実現、効率的な系外惑星捜索

このエントリーをはてなブックマークに追加
位置天文衛星「ガイア」のデータで惑星などが存在しそうな恒星を効率的に絞り込み、すばる望遠鏡の新しい撮像装置で観測するという手法で、初めて褐色矮星が見つかった。

【2020年12月17日 自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター

すばる望遠鏡には、「SCExAO(スケックスエーオー)」と「CHARIS(カリス)」という、系外惑星や恒星周囲の円盤を観測するための最新鋭装置が搭載されている。SCExAOは大気のゆらぎによる像の乱れを検出、補正してシャープな星像を作る補償光学装置で、従来のものよりも補正精度が高い。CHARISは天空の微小な面の各点のスペクトルを一度に取得できる面分光撮像装置だ。両装置を組み合わせた新システムは、約2年間にわたって調整が進められ、既にいくつか成果を挙げている(参照:「原始惑星系円盤に隠された若い惑星系」)。

SCExAOとCHARIS
すばる望遠鏡のナスミス焦点に設置されているSCExAOとCHARIS(提供:プリンストン大学カリス・チーム、国立天文台)

恒星を周回する惑星や褐色矮星は、その重力によりわずかながら中心星を周期的にふらつかせる。NASAエイムズ研究センターおよび国立天文台ハワイ観測所のThayne Currieさんたちの国際研究チームは、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」のデータを利用して、軌道半径の大きな惑星や褐色矮星を伴っていそうな恒星を選び出し、すばる望遠鏡の新システムを使って直接観測する探査を進めている。

Currieさんたちは2018年10月に新システムを使って、ぎょしゃ座の方向約86光年の距離に位置する太陽よりも少し若い恒星「HD 33632」を観測した。さらにその1か月後に米・ハワイのケック望遠鏡でも同天体を観測し、中心星から20天文単位(約30億km、太陽~天王星程度)しか離れていない位置に天体「HD 33632 Ab」を発見した。HD 33632 Abの質量は木星の約46倍と見積もられたので、惑星と恒星の中間的な天体である褐色矮星だということになる。

「HD 33632 Ab は、天球面上での星のふらつきを目当てにして直接撮像で発見した最初の褐色矮星です。これまでの褐色矮星探しは運試しのようなものでしたが、今回は勝算の高い探査が可能になりました」(米・カリフォルニア大学・サンタバーバラ校 Timothy D. Brandtさん) 。

HD 33632 Abの直接撮像画像
SCExAO/CHARISによるHD 33632 Abの直接撮像画像。十字の位置にある中心星からの明るい光の影響は新装置により除去されている。その右横のbの上の点源がHD 33632 Ab(提供:T. Currie, NAOJ/NASA-Ames)

HD 33632 Abの光の強度とHD 33632 Abの軌道を示したグラフ
HD 33632 Abの性質。(左)光の強度を示したグラフ。大気中の水蒸気や一酸化炭素の吸収によるでこぼこした形が見られる。(右)天体の位置の変化から軌道を決定するためのモデル(これにより質量を定めることができる)。複数の楕円のうち、黒の太線が最適解として得られたHD 33632 Abの軌道。丸印は10年毎の予想位置を示す。その他の楕円はHD 33632 Abの質量として仮定された値により色づけされている(提供:T. Currie, NAOJ/NASA-Ames, T. Brandt, UCSB)

これまでの直接撮像による探査での惑星と褐色矮星の検出率は、数パーセント程度と非常に低かった。研究チームが進めているガイアのデータを利用した探査はまだ始まったばかりだが、すでに複数の新しい有望な候補が見つかっており、過去の探査観測よりも高い頻度で惑星と褐色矮星を発見できると期待されている。「SCExAOとCHARISのコンビによって、すばる望遠鏡は、系外惑星と褐色矮星の直接観測の最先端にとどまり続けるでしょう」(東京大学/アストロバイオロジーセンター 葛原昌幸さん)。

関連記事