ヒヤデス星団で褐色矮星の姿がとらえられた
【2022年12月28日 すばる望遠鏡】
褐色矮星は質量が木星のおよそ13~80倍で、恒星として安定的に輝き続けることはできないが、一時的に重水素による核融合を起こしたと推測される天体だ。その大気は恒星と違い、木星のような巨大惑星とよく似ているため、とりわけ軽い褐色矮星は惑星科学でも重要な研究対象と言える。
褐色矮星のなかには、宇宙空間を単独で漂うものと恒星を周回する伴星となっているものがあり、後者の方が質量などを調べやすい。年齢などがよくわかっている恒星の周りを回る褐色矮星の姿をとらえることができれば多くの情報を得られるが、そこまで幸運な発見は稀だ。
アストロバイオロジーセンターの葛原昌幸さんたちの研究チームはこれまでの研究で、伴星型褐色矮星と惑星を効率的に発見する新しい手法を構築している。この手法では、恒星が天の川銀河の中を動くことで観測される「固有運動」に注目する。恒星が単独で運動していれば速度が一定になるが、伴星が周回している場合はその重力によるふらつきが固有運動に加算される。
葛原さんたちはヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ヒッパルコス」とその後継機「ガイア」が時を隔てて同じ恒星の固有運動を測定したデータを比べ、伴星によるふらつきの痕跡を探した。こうして巨大惑星や褐色矮星の伴星が存在する可能性のある恒星を絞り込み、すばる望遠鏡に搭載された極限補償光学装置「SCExAO」(スケックス・エーオー)と面分光撮像装置「CHARIS」(カリス)を組み合わせることで褐色矮星の微かな光を探した。
その結果、太陽に近い質量の恒星「HIP 21152」を周回する褐色矮星「HIP 21152 B」を発見した。
研究チームは、すばる望遠鏡や米・ハワイのケック望遠鏡による計4回の直接撮像と恒星の固有運動データなどを組み合わせ、褐色矮星の軌道や、その質量が木星の22~36倍であることを導き出した。これほど精密に質量が決定された褐色矮星は20例程度しかなく、HIP 21152 Bはその中で最も軽いものだという。
特筆すべきは、中心星のHIP 21152がおうし座のヒヤデス星団に属する恒星だという点だ。ヒヤデス星団は地球からの距離が約160光年と非常に近いおかげでこれまで詳しく研究されていて、恒星は生まれてから約7.5億年経過していることもわかっている。したがって、褐色矮星HIP 21152 Bの年齢も同じだと推定できる。質量と年齢の両方が正確に決定できるため、褐色矮星の性質や進化モデルを考察する上でHIP 21152 Bは貴重な存在だ。
すばる望遠鏡による観測でHIP 21152 Bのスペクトルも得られ、大気中にメタンによる強い吸収が見られるT型褐色矮星と、ほとんど見られないL型褐色矮星の中間的な性質を示すことがわかった。この差は大気の温度や雲の存在と強く関係していて、恒星HR 8799の周りで直接撮像されているガス惑星も類似したスペクトルを持つ。「どのような質量の天体がいつ、HR 8799の惑星やHIP 21152 Bで見られるような大気の特徴を示すのかという観点で、巨大惑星と褐色矮星の大気を調べることが可能になりました。HIP 21152 Bは、今後の天文学・惑星科学の進展で重要な役割を果たすベンチーマーク(基準)になると期待されます」(葛原さん)。
〈参照〉
- すばる望遠鏡:ヒアデス星団に所属する、巨大惑星に似た褐色矮星を直接撮像で発見
- The Astrophysical Journal Letters:Direct-imaging Discovery and Dynamical Mass of a Substellar Companion Orbiting an Accelerating Hyades Sun-like Star with SCExAO/CHARIS 論文
- AAS NOVA:Featured Image: First Images of a Substellar Companion in the Hyades
- myScience:Ground-breaking number of brown dwarfs discovered 独立にHIP 21152 Bの撮像に成功したヨーロッパの研究チームの成果
〈関連リンク〉
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