「ウルトラホットジュピター」でOH分子を発見
【2021年5月6日 アストロバイオロジーセンター】
木星のような巨大ガス惑星で、かつ恒星に極めて近い軌道を持つ系外惑星は「ホットジュピター(熱い木星型惑星)」と呼ばれてきた。その中でも表面温度が2200K(約1900℃)を超えるものは、近年では「ウルトラホットジュピター」と呼ばれることがある。これは一部の恒星にも匹敵する温度であり、分子が原子などに分解されるほどではないかと考えられている。
そして実際に、水分子(H2O)の破壊で生じたと考えられるヒドロキシルラジカル(OH)分子がウルトラホットジュピターWASP-33 bから見つかった。WASP-33 bはアンドロメダ座の方向約380光年の距離にあり、主星から約400万kmのところを1.2日で公転している。太陽系でいえば水星よりはるかに内側の軌道(太陽~水星の約15分の1)という至近距離だ。さらに主星も太陽より高温であるため、WASP-33 bの大気は2500℃以上にも達している。これはほとんどの金属を溶かすほどの高温で、鉄や酸化チタンのガスがこれまでに検出されている。
自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターのStevanus Nugrohoさんを中心とする国際研究チームは、すばる望遠鏡に搭載されている近赤外線高分散分光器「IRD」を用いてこのWASP-33 bを観測した。
通常、惑星からの光は非常に弱く、主星と惑星の光を直接分離することはできない。ただし、惑星が公転すると地球に対する速度が変わり、それによってドップラー効果が生じスペクトルが変化する。IRDはこのドップラー効果によるわずかな波長の変化を高精度で観測する能力を備えた機器で(参照:「第二の地球探しの新観測装置「IRD」がファーストライト」)、スペクトル中に含まれる原子・分子の特徴が主星によるものか、惑星によるものかを区別することができる。
Nugrohoさんたちは観測データから、WASP-33 bのOH分子に由来する信号を分離することに成功した。系外惑星の大気からOH分子が検出されたのは初めてのことだ。一方、水分子の信号は微々たるものだったことから、OH分子のほとんどは高温によって水蒸気が壊されることで生じたと考えられている。
地球の大気では、主に水蒸気と酸素原子との反応からOH分子が生成される。この反応は「大気の洗剤」とも呼ばれ、メタンや一酸化炭素といった生命に対して有害となり得る物質を大気から取り除く重要な役割を果たしている。
「この発見は、系外惑星大気の分子を検出したというだけでなく、惑星大気の化学的な性質を詳細に理解することができるようになったことを示しています」(Nugrohoさん)。
「現代天文学の目標の一つは『地球のような』惑星を探すことです。発見される新しい大気成分は、系外惑星の理解と大気研究のための技術を深め、その目標へと導いてくれます」(アイルランド・トリニティ・カレッジ・ダブリン Neale Gibsonさん)。
〈参照〉
- アストロバイオロジーセンター:世界初:すばる望遠鏡の新分光器で系外惑星にOH分子を発見
- The Astrophysical Journal Letters:First Detection of Hydroxyl Radical Emission from an Exoplanet Atmosphere: High-dispersion Characterization of WASP-33b using Subaru/IRD 論文
〈関連リンク〉
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