「灼熱の土星」型の系外惑星で大気から水蒸気の証拠を検出
【2024年7月29日 アストロバイオロジーセンター】
2005年にすばる望遠鏡などによって発見された系外惑星「HD 149026 b」は、ヘルクレス座の方向約250光年の距離にある、土星に似た大きさのガス惑星だ。中心星「HD 149026」からの距離は水星の軌道半径の10分の1しかなく、わずか2.9日で公転している。温度は鉄の融点より高い約1700Kに達し、「ホットサターン」に分類されている。
近年では、様々な系外惑星で、大気に含まれる分子が特定されている。地球から見て系外惑星が中心星の手前を通過する「トランジット」を起こす場合には、トランジットの最中に分光観測をして中心星の光のスペクトルをとり、トランジット中でないときのスペクトルと比べることで、惑星の大気成分の情報を得ることができる。この方法を透過光分光と呼んでいる。
しかし、惑星が中心星よりずっと暗い場合には、惑星大気を検出するのは非常に難しい。大気のシグナルを得やすいのは、大気層が大きく膨張している高温の惑星や、中心星に近くて大気層を強い光が透過する惑星だ。HD 149026 bはこの両方の性質を持つため、透過光分光観測の理想的なターゲットだが、それでも惑星大気による吸収スペクトルはノイズに埋もれるほどかすかだ。
そこで東京大学のSayyed Ali Rafiさんたちの研究チームは、透過光分光の観測データに「相互相関法」という数学的手法を組み合わせて、HD 149026 bの大気成分の検出を試みた。
中心星の手前を通過する惑星は、トランジットの前半は地球に近づき、後半は地球から遠ざかる向きの視線速度を持っている。そのため、トランジット中の様々な時刻のスペクトルを足し合わせると、惑星大気中の物質による吸収線に、視線速度によるドップラー効果で線幅が付く。また、惑星大気に大規模な流れ(風)があったり、惑星自体が楕円軌道で公転していたりすると、その影響も吸収線の波長のずれとして現れる。
そこでRafiさんたちは、吸収線が様々な線幅やずれを持つ場合のスペクトルのモデルを用意して、実際に観測されたスペクトルがモデルとどのくらい似ているかを「相互相関関数」という関数を使って計算し、観測データに最もよく合う線幅やずれの量を求めた。
「相互相関を利用して、高分解能分光で個別に分解される数百から数千の弱いスペクトル吸収線の情報を組み合わせることによって、系外惑星のシグナルを高めることができます」(アストロバイオロジーセンター Stevanus Nugrohoさん)。
この方法で、スペインのカラー・アルト天文台のCAHA望遠鏡で過去に得られたHD 149026の高分解能分光データを解析したところ、水蒸気が存在する証拠が見つかった。「分光器の近赤外線波長域(0.97~1.7μm)のデータに注目し、その波長域に強い吸収を持つH2O(水)とHCN(シアン化水素)を探した結果、惑星大気中のH2Oの証拠を約4.8の信号対雑音比(S/N)で発見しました」(Rafiさん)。
今回使った観測データは、惑星のトランジットの最中、つまり惑星が地球に夜の面を向けているときにその縁の大気層を通ってきた光を分光したものだが、昨年にはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が同じ惑星を観測し、やはりH2Oを検出している。JWSTでは惑星が中心星の後ろに隠れるとき、つまり惑星が昼の面を地球に向けた状態での反射スペクトルから水を検出した。これらの結果から考えると、HD 149026 bでは大気の様々な領域に広く水が存在するのかもしれない。
HD 149026 bは固体核の質量が地球質量の約110倍にもなり、異常に大きいことが知られている(土星の核は地球質量の約17倍にすぎない)。ガス惑星がこれほど大きな核を持つことは普通の惑星形成モデルでは説明できないため、この惑星は形成された環境や成長過程が特異だったのかもしれない。今後もHD 149026 bの大気を詳しく観測することで、この惑星が誕生したシナリオを検証でき、惑星形成の新たな理論が生まれる可能性もある。
〈参照〉
- アストロバイオロジーセンター:大学院生がホットサターンの大気に水蒸気が存在する証拠を発見
- Astronomical Journal:Evidence of Water Vapor in the Atmosphere of a Metal-Rich Hot Saturn with High-Resolution Transmission Spectroscopy 論文プレプリント
〈関連リンク〉
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