大気中にダイヤモンドが舞う系外惑星
【2025年1月21日 国立天文台 科学研究部】
系外惑星の大気中には光化学によって生成される「ヘイズ」(「もや」)が普遍的に存在することが示唆されている。ヘイズは土星の衛星「タイタン」や冥王星の大気にも存在し、その形成プロセスの理解は、大気化学過程や惑星気候への影響を調べる上でも重要だ。
これまでに発見されてきた系外惑星は高温環境にあることから、ヘイズは煤のような光の反射率の低い“黒い”物質でできていると考えられてきた。ところが、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による近年の観測からは、複数の系外惑星のヘイズが光を反射しやすい“白い”物質で構成されている傾向があることを示す証拠が増えつつあり、従来の予想に疑問を投げかけている。
国立天文台科学研究部の大野和正さんは、大気中の微粒子(エアロゾル)の核生成や凝縮、蒸発、凝集などの過程を計算するエアロゾル微物理モデルと、水素ガスとメタンガスからダイヤモンドを生成・積層させるという産業界で確立された合成方法「CVD」によるダイヤモンドの生成、さらに煤の形成理論を組み合わせ、様々な惑星の温度や大気内の金属量、炭素と酸素の存在比で、どのような組成のヘイズが生成されるのかを調べた。
すると、従来予想されていた煤のような物質の代わりに、ダイヤモンドという想定外の物質が大気中で形成される可能性が示された。ダイヤモンドの形成は幅広いパラメーターにおいて、煤の形成よりも優勢だという。この結果は、系外惑星の高温で水素に富んだ大気が、CVDによるダイヤモンドの低圧合成環境に酷似していることに起因している。
今後、系外惑星の大気観測や、系外惑星大気を模擬した室内実験でダイヤモンド合成が実際に起こるかの検証を通じて、系外惑星のヘイズの正体に対する理解が進むことが期待される。
〈参照〉
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