植物の排熱が地球や系外惑星に及ぼす影響
【2024年4月18日 アストロバイオロジーセンター】
近年では数千個の系外惑星が発見されており、太陽のような恒星を公転し、生命が存在できる「ハビタブルゾーン」にある惑星の割合はそのうち約10%と推定されている。こうした流れを受けて、地球の環境条件にとらわれずに生命の起源や進化の条件などを広く研究する「アストロバイオロジー(宇宙生物学)」が盛んになっている。
地球上の植物は、光合成によって光のエネルギーを化学エネルギーに変換している。その過程で余った光エネルギーは熱として外部に排出され、植物本体がダメージを受けることを防いでいる。このしくみを「非光化学的消光(NPQ; non-photochemical quenching)」と呼ぶ。近年、植物の内部で働くNPQのしくみが分子レベルで解明されつつあるが、NPQで放出される熱が植物自身や環境にどんな影響を与えるのかについてはこれまで注目されておらず、定量的な研究もなかった。
総合研究大学院大学の村上葵さん、アストロバイオロジーセンターの滝澤謙二さんたちの研究チームは、標準的な植物が日照の下でNPQによって排出する熱量を計算し、この熱が葉の内部の温度を上げる効果と、地球全体で平均化した場合の地温を上昇させる効果の大きさを見積った。その結果、NPQとして放出される熱量は1m2当たり64Wという値になることがわかった。
さらに、表面が表皮組織に覆われ、表側に柵状組織、裏側に海綿状組織があるという標準的な葉の構造を仮定して、中央の柵状組織から外部に熱が放出された場合に葉の内部に生じる温度勾配の度合いも計算された。通常の温度勾配は0.1度以下と小さくなるが、葉の内部での熱伝導が海綿状組織の空気層の部分でしか起こらないという特殊な条件の下では、温度勾配が1度程度まで大きくなる可能性があることがわかった。
また、地球上の緯度や季節、時刻による日射量の変化と植生の被覆率を考慮して地球全体での平均的なNPQによる発熱量を見積もると、1m2当たり約2.2Wという値が得られた。これは地表面から放射される赤外線全体の0.55%ほどに相当し、割合としては少ないが、温室効果ガスが地球を温める効果と同程度の影響を与える可能性があることを示唆する結果だ。
地球上の植物の多くは、光をできるだけ多く吸収し、余ったエネルギーを熱として放射するように進化している。そのため、植生が地表を覆うと地表の反射率が下がり、地表を温める方向に働く。これは、植物が光合成で二酸化炭素を吸収して地球が寒冷化する効果を打ち消す役割を果たしている。もし、地球の植物とは逆に、日射のほとんどを反射して排熱の少ない植物が系外惑星上で進化して拡大すると、地球よりも急激な寒冷化が進むかもしれない。
〈参照〉
- アストロバイオロジーセンター:光合成反応の安全弁からの放熱は植物と地球環境に影響を与えるか?
- Frontiers in Plant Science:How much heat does non-photochemical quenching produce? 論文
〈関連リンク〉
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