タイタンや原始地球を覆う「もや」の生成過程を解明
【2018年3月9日 千葉工業大学】
土星最大の衛星「タイタン」は、天体全体がオレンジ色の分厚い「もや」(「ヘイズ」、有機物のエアロゾル)で覆わており、太陽からの紫外線や高エネルギー粒子をエネルギー源として、大気中で炭化水素分子が様々な反応を繰り返して重合している。
同様の現象は光合成細菌の活動によって酸素濃度が増大する以前の約25億年前の地球でも起こったと考えられており、生命の起源となる前駆物質を合成する環境として大きな注目を集めている。また、もやは太陽光を遮るため、惑星の気候を左右する上でも重要な役割を果たしている。
タイタン大気中でのもやの生成過程は、土星探査機「カッシーニ」と、カッシーニから切り離されてタイタンへ着陸した小型探査機「ホイヘンス」による探査で、ある程度理解されてきた。
しかし、まだ不明な点も数多く残されており、とくに120nm~300nmまでの比較的波長の長い遠紫外線によってエアロゾルが生成されるメカニズムはあまり解明されていなかった。タイタンでは遠紫外線よりも波長の短い極端紫外線や高エネルギー粒子によって反応が駆動されているが、地球では遠紫外線の照射量のほうがはるかに大きい。そのため、遠紫外線による反応メカニズムを調べることが、原始地球の気候の理解にとって重要となる。
千葉工業大学惑星探査研究センター(研究当時は東京大学新領域創成科学研究科所属)の洪鵬さんたちの研究チームは、遠紫外線を発生させることができる水素・ヘリウム光源を製作し、タイタンと原始地球の大気組成を模擬したメタンと二酸化炭素の混合気体に照射する実験を行った。そして、生成したエアロゾルの生成率や赤外透過スペクトル、気相分子の質量分析を行ったところ、メタンより二酸化炭素が多い大気組成では、エアロゾルの生成率が大きく下がること、生成されたエアロゾル粒子には直鎖状炭化水素に由来する化学結合が多く含まれることがわかった。
さらに研究チームは、実験結果を解析するために、紫外線や高エネルギー粒子などの照射によって開始される光化学反応を計算する数値モデルを構築した。その結果、従来想定されてきた低次の炭化水素重合反応よりも、粒子表面で起こる「メチルラジカル」(分子や原子から結合が取れたり電荷が負荷されるなどしてエネルギーが高くなり反応性が高くなった状態にあるメチル基の一つ)の付着によって、固体や気体といった2種類以上の相が共存する状態での反応(不均一反応)が卓越することがわかった。
これらの結果から、タイタンの中層大気では不均一反応による粒子の成長が卓越すること、また原始地球では従来の予想よりも有機物エアロゾル層が薄くなる可能性が示唆された。
近年、冥王星や太陽系外の惑星でももやの層の存在が確認されており、本研究で得られた知見はそのような還元的な大気を持つ天体にも広く適用できると期待されている。
〈参照〉
- 千葉工業大学:タイタン・原始地球大気のヘイズの生成過程を解明 - 有機物エアロゾルを生成する反応メカニズムを制約
- Icarus:Experimental study of heterogeneous organic chemistry induced by far ultraviolet light: Implications for growth of organic aerosols by CH3 addition in the atmospheres of Titan and early Earth 論文
〈関連リンク〉
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