「タイタン」に別れを告げる「カッシーニ」
【2017年8月17日 NASA JPL】
土星探査機「カッシーニ」のミッション終了まで、残すところ1か月を切った。
2004年の土星到着以降13年にわたるミッションで、カッシーニは土星最大の衛星「タイタン」を遠近から何度も観測してきた。今年4月までに127回のタイタンへのフライバイ(接近飛行)を行い、2005年1月にはカッシーニから小型機「ホイヘンス」をタイタンへと着陸させている。
ミッション当初、カッシーニがとらえたタイタンの画像はつぎはぎのようなものだったが、最終的にタイタン表面の約67%が画像に収められ、タイタンの姿がより完全に高解像度で浮かび上がることとなった。
カッシーニによる観測成果の一つは、理論から予測されていた液体炭化水素の存在をタイタンの表面に発見したことだ。タイタンの湖と海は南北の極域に限定されていて表面の大部分に湖は存在していない。また、タイタンの両極上空に浮かぶ、明るく巨大な炭化水素の雲も観測した。雲からはメタンの雨が降っている。さらに、タイタンの表面下に液体の水をたたえた海の存在を示す証拠も得られた。
タイタンの表面にある山や砂丘、海などといった地形の分布と、時間経過に伴う大気のふるまいを理解するための十分な観測データが得られたことで、表面に存在する液体がどのように移動するのか理解するための研究が始まっている。タイタン大気中のメタンの補給メカニズムはよくわかっていないが、今後手がかりが得られるかもしれない。「メタンの蓄えがタイタンの表面ではなく表面下であれば、タイタンに関する大発見となるでしょう」(米・ジョンズ・ホプキンズ大学 Elizabeth Turtleさん)。
タイタンでは「魔法の島」と称される謎の地形が現れたり消えたりしており、4月22日に実施された最後の接近観測ではこの地形は見られていない。研究チームはその正体を泡か波だとする候補案を念頭に置きながら分析を進めている。研究チームはタイタン北極域に点在する湖の深さも図っており、湖の液体の組成がメタンかエタンかといった情報が得られるだろう。
この最後のフライバイでは、カッシーニが2004年に初めてタイタンに接近した際にとらえた地形を含む領域も撮影されている。「見事に、スタート地点に近いところで終わりを迎えました。13年前との違いは、タイタンに関する私たちの理解が豊かなものになり、疑問が進化したことです」(NASA JPL Steve Wallさん)。
タイタンは探査対象としてだけでなく、その重力で探査機の軌道を調整するという点でも重要な天体であった。フライバイによる軌道変更は莫大な燃料の消費によるものに匹敵するほどの影響を及ぼすことができ、外側の衛星「イアペタス」までカッシーニを送ったときにもタイタンへのフライバイが利用されている。
土星突入の4日前となる9月11日、カッシーニは遠く離れたタイタンを利用した最後の軌道変更を行い、長年見続けてきた天体に別れを告げる。
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