タイタンの砂は有機物の微粒子からできたのかも

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土星の衛星タイタンを模した実験から、タイタンの大気に含まれる有機物の微粒子が液体メタンの雨の蒸発で集まり、砂のサイズにまで急成長する可能性が示された。

【2023年8月3日 東京工業大学地球生命研究所

土星最大の衛星タイタンは、太陽系の衛星としては唯一、厚い大気を持つ。その大気の上層部では複雑な光化学反応によって、有機物のエアロゾル(ソリン)が生成され、「もや」となって上空を覆っている。地表には液体メタンが流れる海や湖など、地球とそっくりな地形が見られるほか、赤道域には有機物からなると思われる砂丘が広がっていて、液体メタンが雨となって降り、表面から大気中に蒸発するという循環が繰り返されている。

タイタンの砂丘の砂がどうやってできたのかはわかっていない。大気から地表へと落ちた有機物のエアロゾルが起源かもしれないが、砂の粒子が直径約0.1mmであるのに対して、有機物エアロゾルのサイズは1/10000mmほどしかない。そのため、もしエアロゾルから砂が生じているのなら、微細な粒子が大きく成長できる効率の良いメカニズムがあるはずだ。

東京工業大学地球生命研究所の平井英人さんたちの研究チームは、液体メタンの降雨と蒸発のサイクルに着目し、タイタンの砂のできかたを明らかにする実験を行った。

実験では、タイタンの地表とほぼ同じ約-180℃という低温のもとで、ソリンの微粒子が付いたアルミ板を真空容器に置き、そこに飽和気圧のメタンガスを入れてメタンの液滴が凝結するようにした。凝結してできた液体メタンにこのアルミ板を数時間浸してから、徐々にガスを抜いて液体メタンを蒸発させていき、減っていく液体メタンの中に金の板を置いて、最終的に全ての液体メタンを蒸発させた。

この実験の結果、アルミ板の上にあったソリンの粒子は、液体メタンに濡れてから蒸発した後には粒子同士がくっついて固まった状態になった。また、濃縮された液体メタンに浸っていた金の板の方にも、板状の固体物質が残った。一方、ソリンを含まない対照実験ではこれらの固体物質はできなかった。

これらの結果から、平井さんたちは、液体メタンの雨が降って乾くというサイクルがあると、大気中の有機物エアロゾルが液体メタンに溶けて集まり、メタンが蒸発する際にエアロゾルから溶け出した成分が「のり」のように無数のエアロゾルの微粒子をくっつけて、効率的に大きな粒子に成長すると考えている。

ソリン粒子と蒸発沈殿物
ソリンの粒子と蒸発後に残った固体物質の走査型電子顕微鏡画像。(a) 液体メタンに浸す前のアルミ板上のソリン粒子。(b) (a) を浸した液体メタンが蒸発した後に残った凝集物質。(c) (b)の拡大画像。個々の粒子がくっついているように見える。(d) 金の板に残った沈殿物。(e,f) (d)の拡大画像(提供:Hirai et al. (2023)より)

今回の実験から、タイタンでは地球や火星・小惑星のように、大きな岩石が温度変化や水の浸透などで風化して砂ができるのではなく、大気中のエアロゾル粒子が液体メタンの作用でくっつきあって砂のサイズにまで成長するという可能性が示された。このモデルが正しいかどうかは、2030年代半ばにNASAが計画している史上初のドローン型タイタン探査機「ドラゴンフライ」による探査で明らかになるかもしれない。

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