タイタンのダストストーム

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探査機「カッシーニ」の観測データから、土星の衛星「タイタン」の赤道領域に大規模な砂嵐と思われる現象が発生していたことが明らかになった。

【2018年10月2日 ヨーロッパ宇宙機関

NASAとヨーロッパ宇宙機関などが運用した探査機「カッシーニ」は、2004年から2017年まで土星とその衛星を周回し探査を行った。その膨大なデータの一部から、土星最大の衛星「タイタン」の赤道領域に大規模な砂嵐と思われるものが発生していたことがわかった。太陽系内で地球と火星に次いで3つ目となる、砂嵐が発生する天体ということになる。

「タイタンはとても活発な衛星です。私たちはタイタンの地形や一風変わった炭化水素の循環について知っていましたが、砂嵐もタイタンの特徴に新しく加わる可能性があります」(仏・パリ第7ドゥニ・ディドロ大学 Sébastien Rodriguezさん)。

タイタンは太陽系内の衛星としては唯一の、豊富な大気を持つ天体であり、地球以外で唯一の、表面に安定的に液体が存在する天体でもある。ただし、タイタンに存在する液体は水ではなく、主にメタンとエタンだ。タイタンでは炭化水素の分子が蒸発して雲の中で凝縮し、雨となって地表に降り注いでいる。

タイタンの想像図
液体のメタンやエタンが地表に存在するタイタンの想像図(提供:Steven Hobbs)

タイタンの気象は、地球と同じように季節ごとに変化する。とくに、約15年ごとに訪れるタイタンの春分や秋分のころには赤道付近で巨大な雲が形成され、激しいメタンの嵐が発生する。

Rodriguezさんたちの研究チームは、タイタンの北半球が春分を迎えていた2009年ごろにカッシーニが撮影した赤外線画像から、タイタンの赤道付近に通常とは異なる3つの輝点を発見した。初めはメタンの雲だと思われたこの模様を詳しく調べたところ、全く違うものであることがわかった。「タイタンにおける雲の形成に関する理解から考えると、この時期にこの領域にメタンの雲が発生することは物理的に不可能だと言えます」(Sébastienさん)。

3つの明るい模様
3つの明るい模様(矢印の先)。中段の画像が模様が最も明るい時のもので、上下は同領域をその前後の期日にとらえたもの。画像クリックで表示拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona/University Paris Diderot/IPGP/S. Rodriguez et al. 2018)

この明るい模様は最短で11時間、最長でも5週間ほどで消えてしまったことから、表面で凍結したメタンの雨や、内部から表面に流れ出て凍った物質である可能性はない。化学組成の面からも、表面の特徴ではないことが示されている。

モデルによると、この特徴は表面に近い大気中に広がる、固体粒子の薄い層であると考えられる。模様の位置がタイタンの赤道付近に存在する砂丘の真上にあたることから、この模様は砂丘から巻き上げられた砂塵の雲だとみられる。

この砂嵐は、地球の乾燥した地域で発生する大規模な砂嵐「ハブーブ」と同じようなものと考えられる。ハブーブは、雨で冷えた空気が下降することで突風が発生し、その風によって塵が高く舞い上げられる現象だ。タイタンの赤道付近ではメタンの嵐が同じような突風を発生させている可能性がある。強い風や大規模な砂嵐によって、タイタンの砂丘は常に変化し続けているのかもしれない。

タイタンの砂嵐の想像図
タイタンの砂嵐の想像図(提供:IPGP/Labex UnivEarthS/University Paris Diderot - C. Epitalon & S. Rodriguez)

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