キュリオシティがとらえた、砂嵐に霞む火星
約3週間前に発生した火星のダストストームは、現在では火星のほぼ全球を覆う規模にまで拡大している。NASAの火星探査ローバー「オポチュニティ」は電力を太陽電池パネルに頼っているが、このダストストームで地表に届く太陽光が大幅に減っているため、稼働停止状態に追い込まれている(参照:「火星探査車オポチュニティが音信不通」)。一方、原子力電池で動作する探査ローバー「キュリオシティ」は現在も探査を続けている。
キュリオシティが現在探査しているゲール・クレーターは、ダストストームの影響が深刻なオポチュニティの活動地域とはほぼ反対側の経度にあたるが、ここでも大気中の塵粒子は増え続けており、大気の不透明度を示す「光学的厚さ(τ)」の値は、キュリオシティのミッション開始以降で最も高い8.0以上を記録している。一方、オポチュニティが稼働停止の直前に測定したτの値は11に近く、これはもはや正確な測定ができないほど大気が不透明になっていることを示している。
火星で全球規模のダストストームが前回発生したのは、キュリオシティが火星に着陸する5年前の2007年だった。しかし現在は、地上の探査機に加えて火星の軌道上にも探査機が何機も周回しているため、火星の表面と軌道上の両方からダストストームを詳しく研究できる初の機会となっている。とくに、NASAの火星探査機マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)の広角カメラは火星表面の全球画像を毎日撮影しており、ダストストームの変化を刻々と追跡することができる。今回もMROはダストストームの発生をいち早く観測し、オポチュニティの運用チームに砂嵐が近づいていることを知らせる役割を果たした。
「こうした大規模なダストストームの観測を重ねることで、将来的にはその発生の仕組みをモデル化できるようになるはずです。エルニーニョ現象や台風シーズンの傾向を予測するのと同じように、火星のダストストームを予報できる日が来るかもしれません」(NASAジェット推進研究所 Rich Zurekさん)。
下の画像は、ゲール・クレーターの内部にいるキュリオシティが、約30km離れた同クレーターの縁をマストカメラ(Mastcam)で毎日撮影したものだ。次第にもやが濃くなってきている様子がわかる。キュリオシティが観測している現在のもやの濃さは、この季節の通常の値に比べて約6倍から8倍も高くなっている。
キュリオシティの運用チームによる調査では、今回のダストストームでキュリオシティの搭載機器が影響を受ける可能性はほとんどないことがわかっている。最も影響を受けるのは同機のカメラで、太陽光が弱まっているために、より長い露光時間が必要となっている。キュリオシティは、マストカメラのレンズに吹き付ける塵の量をなるべく少なくするために、撮影を終えるたびにカメラを地面に向けるようにしている。
火星のダストストームはありふれた現象で、南半球が春から夏を迎える季節に特に頻繁に発生する。この時期には火星が太陽に最も近づくからだ。大気が暖まるにつれて、地面で場所ごとの温度差が大きくなると風が発生し、ベビーパウダーの粒くらいのサイズの塵粒子が巻き上げられて移動する。冬の間はドライアイスとして凍っていた極冠の二酸化炭素が春になって蒸発すると、火星の大気が厚くなって地表の気圧が上がる。これによって塵の粒子が大気中にとどまりやすくなり、さらに多くの塵が巻き上げられるようになる。こうしてできた塵の雲が高さ60km以上まで達することもある。
火星のダストストームはよくある現象だが、たいていの嵐は局地的な規模にとどまる。しかし現在発生中のダストストームは、地球でいえば北アメリカとロシアを合わせたよりも広い面積にまで拡大している。
こうしたダストストームはきわめて特異な現象に思えるかもしれないが、火星特有の現象というわけでもない。地球でも北アフリカや中近東、アメリカ南西部のような砂漠地帯ではダストストームが発生する。しかし地球の場合、火星よりも大気が厚く重力も強いため、舞い上がった塵が地表に落下しやすい。また、植物が地面を覆っているため、その根が土壌の舞い上がりを抑えたり植生が風を防いでくれる。雨も大気中の粒子を洗い流してくれる。
〈参照〉
- NASA:Martian Dust Storm Grows Global: Curiosity Captures Photos of Thickening Haze
- NASA JPL:NASA Encounters the Perfect Storm for Science
〈関連リンク〉
- Mars Exploration Rover Mission
- アストロアーツ:
- 星ナビ2018年7月号 火星観測ハンドブック付録、火星探査の歴史を大特集
- 【特集】火星大接近(2018年7月31日 地球最接近)
- 天体写真ギャラリー:2018年 火星
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