氷天体の環境を左右するガスハイドレートの形成
【2020年12月28日 岡山大学】
木星や土星の周りを回る大型衛星や準惑星の冥王星などの地殻は主に氷でできていると考えられている。一部の天体では地下に液体の水をたたえた海が広がっていると考えられており、氷天体の内部における水の状態は多くの関心を集めているテーマだ。
水は単独で液体や固体になるだけではなく、メタンなど水に溶けにくいガスと一緒に低温である程度の圧力下に置かれると、水分子がガスの分子を閉じ込める結晶構造を作る「ガスハイドレート」という状態になりうる。ガスハイドレートの結晶は通常の氷と比べて熱を伝えにくく、保温効果が非常に大きい。この性質は、地下海が凍らずに維持できるかどうかに大きく関わってくるはずだ。外惑星の衛星や冥王星でガスハイドレートが生成される可能性はこれまでに指摘されていたが、水がどういった条件で通常の氷ではなくガスハイドレートになるのかは不明だった。
岡山大学異分野基礎科学研究所の田中秀樹さんたちの研究チームは、ガスハイドレートが様々な温度・圧力条件および組成比(気体と水の割合)において生成できるかどうかを理論的に正確に予測する方法を初めて考案した。
これを太陽系内の天体に適用したところ、非常に希薄な酸素の大気を持つ木星の衛星エウロパやガニメデでは、通常の氷が生じると予想される。一方、窒素を主成分とする高圧で低温の大気を持つ土星の衛星タイタンや、同じく窒素を主成分とする極低温の大気を持つ冥王星の場合、どちらの場合も通常の氷ではなく、窒素とメタンを含むガスハイドレートが生じるという。
タイタンの地表には液体のメタンが存在し、地球の水と同じように渓谷や湖沼などの地形を作り出している。メタンは光化学反応で変化しやすいため、補給がなければ数千万年ほどで他の物質に変換されてしまうはずだ。従来の説では、地底のメタンが氷火山によって地表に供給されると考えられていたが、今回の研究によればメタンハイドレートが地殻にあまねく存在しているので、噴火などを想定しなくてもメタンがもたらされうる。
冥王星は表面が極低温であるにもかかわらず、液体の水をたたえた内部海があるという証拠が見つかっている。その原因について、2019年に北海道大学の鎌田俊一さんたちの研究グループが、ガスハイドレートの層が毛布のような役割をしているためという説を発表した(参照:「冥王星の内部海の鍵はメタンハイドレート」)。今回の研究は、冥王星の表面が水に覆われてから十分に時間が経過すればそのような層が実際に形成されることを裏付けている。
〈参照〉
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