「キューブリック山」など、冥王星の衛星カロンの地名を正式承認
【2018年4月13日 国際天文学連合】
冥王星で最大の衛星カロンはカイパーベルト天体の中でも大きな天体の一つで、その表面はクレーターや様々な地質学的地形に富んでいる。2015年にNASAの探査機「ニューホライズンズ」が冥王星とカロンに接近し、その表面の高精細画像を初めて撮影した。
このときに発見されたカロンの谷や地溝、クレーターについては、同ミッションの研究チームが暫定的に付けた名前がこれまで非公式に使われてきた。今回、天体とその表面地形の名称を管理している国際天文学連合(IAU)の惑星系命名ワーキンググループによって、ニューホライズンズの研究チームが提案した地名が正式に承認された。
同研究チームでは2015年にインターネットで「Our Pluto」キャンペーンを開始し、冥王星やカロンの地形名の案を募集してきた。今回承認された名前を見ると、世界中の人々から集まった命名提案の幅広さがうかがえる。「国際精神に基づいてカロンの地形が命名されたことを大変嬉しく思います」(IAU惑星系命名ワーキンググループ議長 Rita Schulzさん)。
ニューホライズンズが成し遂げた素晴らしい冥王星探査の栄誉を讃えて、冥王星系の地名は旅行者、探検家、科学者、開拓者、探検の目的地などにちなんだ名前をテーマとすることが定められている(参照:「冥王星と衛星の地名のテーマが公式決定」)。これを受けて、2017年9月には冥王星の地形の正式名称が決定された(参照:「冥王星の地形に初の公式名称、「ハヤブサ大陸」など」)。
IAUによって承認されたカロン表面の12の地形の名称とその由来
※読み方や地形の訳語はアストロアーツによる。
地名 | 地名(英語) | 由来 |
---|---|---|
アルゴ谷 | Argo Chasma | ギリシアの叙事詩『アルゴナウティカ』で、金毛羊皮を求めて航海する英雄イアソンと勇者達が乗った巨船「アルゴ」にちなむ。 |
バトラー山 | Butler Mons | 米国のSF作家、オクテイヴィア・E・バトラー(1947-2006)にちなむ。SF作家として初めてマッカーサー・フェローを受賞。「Xenogenesis三部作」で地球からの人類の脱出と帰還を描いた。 |
カレウチェ谷 | Caleuche Chasma | チリ・チロエ諸島の神話に登場する幽霊船「カレウチェ(Caleuche)」にちなむ。チロエ諸島近くの海岸に現れ、海で亡くなった死者を集めて永遠に航海を続けると伝えられている。 |
クラーク山地 | Clarke Montes | 英国のSF作家、アーサー・C・クラーク(1917-2008)にちなむ。『2001年宇宙の旅』(1968年)など、数多くの小説や短編で宇宙探査を想像力豊かに描いた。 |
ドロシー・クレーター | Dorothy Crater | 児童文学小説『オズの魔法使い』(1900年)に登場する主人公の少女、ドロシー・ゲイルにちなむ。作者のライマン・フランク・ボーム(1856-1919)は、ドロシーが旅や冒険を繰り広げる「オズの国」シリーズを数多く執筆した。 |
キューブリック山 | Kubrick Mons | 米国の映画監督、スタンリー・キューブリック(1928-1999)にちなむ。代表作『2001年宇宙の旅』(1968年)で、道具を使うヒト科動物から宇宙探査を行う知的存在へ、そしてさらにその先へと進化する人類の姿を描いた。 |
マアンジェト谷 | Mandjet Chasma | エジプト神話で太陽神ラーが乗る船「マアンジェト(Mandjet)」にちなむ。ラーはこの船に乗って空を毎日航行するとされた。これは宇宙船を描いた最古の神話の一つともいえる。 |
ナスレッディン・クレーター | Nasreddin Crater | 中東や南ヨーロッパ、アジアの一部で伝承されている民話や頓知話の主人公「ナスレッディン(Nasreddin)」にちなむ。 |
ネモ・クレーター | Nemo Crater | フランスの小説家、ジュール・ヴェルヌ(1828-1905)の『海底二万里』(1870年)や『神秘の島』(1874年)に登場する潜水艦ノーチラス号の船長にちなむ。 |
ピルクス・クレーター | Pirx Crater | ポーランドのSF作家、スタニスワフ・レム(1921-2006)の短編集に登場する宇宙飛行士「ピルクス(Pirx)」にちなむ。 |
レヴァティ・クレーター | Revati Crater | ヒンドゥー教の叙事詩『マハーバーラタ』に登場する王女「レヴァティ(Revati)」にちなむ。『マハーバーラタ』は紀元前400年ごろに成立し、歴史上で初めてタイムトラベルが登場した物語とされている。 |
サトコ・クレーター | Sadko Crater | 中世ロシアの叙事詩『ブィリーナ』に登場する、海底の王国を訪れる冒険者「サトコ(Sadko)」にちなむ。 |
(文:中野太郎)
〈参照〉
- IAU:Pluto’s Largest Moon, Charon, Gets Its First Official Feature Names
- Gazetteer of Planetary Nomenclature:First Names Approved for Charon
〈関連リンク〉
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