見えざる巨大構造がヒヤデス星団を崩した

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おうし座のヒヤデス星団からはぐれた星が数千光年離れたところまで散らばっていることが示され、散乱の過程で質量が太陽の約1000万倍ある未知の塊と作用している可能性が示唆された。

【2021年3月29日 ヨーロッパ宇宙機関

恒星の大集団である銀河は、しばしば他の銀河からの重力で変形し、ときには引っ張られて細長くなる。似たようなことはもっと小さなスケール、すなわち銀河の内部にある星団でも起こっているかもしれない。ただ、星団から散らばった星は、周りの無関係な星に紛れてしまうので、星団が引きちぎられる様子をとらえて分析するのは銀河に比べて難しい。

それでも、恒星の位置と移動速度を一つずつ正確に調べることで、星団からはぐれた星とそうでない星をより分けることができるはずだ。このような分析には、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の位置天文衛星「ガイア」が全天を観測して得た、天の川銀河内の恒星10億個以上のデータが役に立つ。

ESAのTereza Jerabkovaさんたちの研究チームは、距離約153光年と太陽系に最も近い散開星団である、おうし座のヒヤデス星団に注目した。ヒヤデスは牡牛の顔の部分にあたり、V字形に星が並ぶ様子が肉眼や双眼鏡でも見やすいが、望遠鏡でとらえられる暗い星も含めると、直径およそ60光年の範囲に数百の恒星が集まっている。Jerabkovaさんたちはその外へ散ってしまった星を探した。

ヒヤデス星団、火星、プレアデス星団
ヒヤデス星団とアルデバラン(左)、火星(中央)、プレアデス星団(右)。おうし座の1等星アルデバランの近くにV字形に並んでいる星々がヒヤデス星団(撮影:北極老人星さん)。画像クリックで天体写真ギャラリーのページ

ヒヤデスのような散開星団はほぼ同時期に同じ星間雲から生まれた星の集団なので、誕生した時点ではほぼ一様に、同じ方向へ運動していると予想できる。だが星団内の星同士に働く重力により、一部の星は端へ移動し、そこで外部からの重力を受けて引きずり出される。これらの効果によって、星団全体の進行方向とその逆方向に2つのトレイル(尾)が形成されるはずだ。

研究チームはこのプロセスをコンピューターシミュレーションで再現し、予想されたトレイルの位置とガイアのデータを比べることで、ヒヤデスからはぐれた星を探した。ヒヤデスのトレイルをたどる研究はこれが初めてではないが、従来は単純にヒヤデス星団と同じ速度で運動している恒星を探すことでトレイルをたどっていた。だがヒヤデスは誕生してから6~7億年も経過しているので、大昔に星団からはぐれた恒星の動きは変化している。Jerabkovaさんたちは計算によってこれらの星も拾うことに成功し、数千光年にまで伸びた2本のトレイルを構成する数千個の星を検出した。

ヒヤデス星団に元々属していた数百個の星の広がり
ガイアのデータから示された、ヒヤデス星団に元々属していた数百個の星々(ピンク)の広がり。星団中心部から左斜め下と右斜め上へトレイルが伸びている(提供:ESA/Gaia/DPAC, CC BY-SA 3.0 IGO; acknowledgement: S. Jordan/T. Sagrista)

詳しく調べたところ、星団の前方にあるトレイルに比べると、後ろのトレイルに含まれる星の方が少ない。理論上はどちらのトレイルにも同じ数の星があるはずなので、ヒヤデス星団はただ自然に崩れ続けたのではなく、何か劇的な作用があったと予想される。

Jerabkovaさんたちはシミュレーションを重ね、太陽の約1000万倍の質量を含む塊がトレイルにぶつかれば、この結果を再現できることを示した。しかし近傍には、これほどの大質量を持つガス雲や星団は知られていない。

ヒヤデス星団の6.5億年前から現在までの進化を追ったシミュレーション動画。終盤(17秒ごろ)に太陽質量の1000万倍の構造(灰色の丸)が星団に接近して尾と衝突し、片方の尾の星が破壊されたとみられる(提供:Jerabkova et al., A&A, 2021)

もし、この塊が将来の観測でも検出できなければ、その正体はダークマターの「サブハロー」かもしれないとJerabkovaさんは考えている。天の川銀河には円盤面を包む球状の「ハロー」と呼ばれる構造があり、そこには光学的に観測可能な天体の質量を上回るダークマターが存在することが知られているが、サブハローとはより小さなスケールでダークマターが集まった領域だ。

星団のトレイルをたどることで、天の川銀河の見えざる構造を可視化できるかもしれないとJerabkovaさんたちは期待している。

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