地球の天気予報並みの高解像度で行う金星大気シミュレーション
【2021年6月23日 神戸大学】
金星は地球とほぼ同じ大きさであるにもかかわらず、大気の性質は大きく異なる。地表は摂氏460度に達する高温高圧で、高度70kmの大気は自転速度の60倍に達する「スーパーローテーション」と呼ばれる高速回転をしているのだ。この気象を研究しようとしても、測量機器を直接送り込むにはあまりに苛酷な環境であり、地上の望遠鏡や周回機から観測する場合も硫酸の雲に阻まれてしまう。それでも、紫外線や赤外線の画像を撮影する日本の金星探査機「あかつき」の活躍などで少しずつ金星特有の気象が明かされつつある。
気象の研究にはシミュレーションも欠かせない。地球で天気予報を行うときのように数値シミュレーションを実施して観測結果と比べることで、金星大気の性質を検証することができるのだ。慶応義塾大学の杉本憲彦さんたちの研究グループでは、「あかつき」が観測を始める前から、金星大気全体の数値シミュレーションを行うための計算プログラム「AFES-Venus」の開発を進めていた(参照:「金星の大気循環再現システムを開発、「あかつき」データの利活用が可能に」)。これは海洋研究開発機構のスーパーコンピューター「地球シミュレータ」に最適化された地球大気大循環モデル「AFES」を金星用に変更したものだ。
AFES-Venusはこれまでもスーパーローテーションの再現に成功するなどの成果を挙げているが、杉本さんたちは地球の天気予報で行う計算にも匹敵する、過去最高の解像度で金星大気の数値シミュレーションを実施することにした。その解像度とは、大気を水平方向に20km以下、上下方向で250m以下の大きさで区切るというもので、格子状に並んだ約4.8億個の点上で大気の状態を計算した。
その結果、スーパーローテーションの中で、水平方向の波長250km程度の大気重力波が生じている様子が見つかった。大気重力波は浮力によって大気が上下に振動する波であり、地球でもジェット気流などに伴い発生している。このほか大気には太陽光による昼夜の寒暖の差が引き起こす熱潮汐波があり、スーパーローテーションの維持にも関わっていると考えられている(参照:「「あかつき」が明かす金星のスーパーローテーションの維持機構」)。
大気重力波が発生するには、空気が何らかの作用で上下に動く必要がある。金星の緯度30~60度の中緯度地帯ではジェット気流や低気圧がその役割を果たしていた。一方、赤道付近では空気を直接上下に動かす流れはないものの、熱潮汐波がスーパーローテーションを加速させる領域と減速する領域がぶつかることで大気が圧縮されて重くなることで重力波が生じる「加速・減速メカニズム」と、流体が速く流れるとその場所の圧力が低下するベルヌーイ効果が上下の空気を引っ張り、これが山や谷のように空気の流れを上下させる「山岳波的メカニズム」によって、大気重力波の発生が説明できるという。
波長250km程度の大気重力波は、全球的なスーパーローテーションと比べれば非常に規模が小さい。だが、この大気重力波が生じると、熱潮汐波がスーパーローテーションを加速・減速させる効果を半分程度打ち消す働きがあることがわかった。つまり、この小規模な大気重力波もスーパーローテーションの形成と維持に関わっているかもしれないのだ。
シミュレーションによって存在が明らかになった大気重力波が生じる高度70km付近を、「あかつき」は紫外線により高解像度で撮影することができる。波は小規模だが、金星に「あかつき」が近づくタイミングでは十分な解像度でとらえられるという。この大気重力波を実際に観測できることが期待されている。
〈参照〉
- 神戸大学:金星大気中の自発的な波の励起を初めて再現
- Nature Communications:Generation of gravity waves from thermal tides in the Venus atmosphere 論文
〈関連リンク〉
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