ガス惑星の大気から探る、「太陽系の拡大版」ができるまで

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【2013年3月19日 ケック天文台トロント大学

ペガスス座の方向130光年彼方の恒星「HR 8799」には、4つの巨大ガス惑星が直接撮像で確認されている。その1つ、HR 8799cの大気成分が詳細に観測され、惑星がどのようなプロセスで作られるかの大きな手がかりを得ることに成功した。


ケック-II望遠鏡でとらえたHR 8799惑星系

ケック-II望遠鏡でとらえたHR 8799惑星系。それぞれのアルファベットが惑星を示す。クリックで拡大(提供:NRC-HIA, C. Marois and Keck Observatory)

恒星を取り囲む円盤の中で惑星が形成されていくイメージ図

恒星(明るい点)を取り囲む円盤の中で惑星(画像右側)が形成されていくイメージ図。クリックで拡大(提供:Dunlap Institute for Astronomy & Astrophysics; Mediafarm)

Quinn Konopackyさん(カナダ・トロント大学ダンラップ研究所)らのチームは、米ハワイのケック-II望遠鏡を用いて130光年彼方の恒星HR 8799を観測した。この星には4つの巨大ガス惑星が見つかっており、そのうちの1つHR 8799cの大気に、水蒸気と一酸化炭素が含まれていることがわかった。

水蒸気があるといっても、地表がなく、形成時のエネルギーの名残りで摂氏500度を越える高温環境は、とても生命が住めるようなものではない。

「観測でとても詳細なデータが得られました。大気中に存在する炭素と酸素の量の比率がわかります。それが、この惑星系がどのようにしてできたかのヒントとなるのです」(ローウェル天文台のTravis Barmanさん)。

惑星が形成されるプロセスについては、「コア成長モデル」と「重力不安定モデル」の2通りが考えられている。恒星が作られると、その周囲には惑星の材料となるガスや塵の円盤ができる。太陽系形成のプロセスとされる「コア成長モデル」では、惑星の固体の中心核が徐々に形成されはじめ、じゅうぶんに成長すると円盤からガスを吸収するようになる。もう1つの「重力不安定モデル」では、円盤の一部が自己重力でつぶれ、あっという間に惑星が形成される。

今回観測されたHR 8799cのデータでは酸素に対する炭素の比率が高いことから、「コア成長モデル」で惑星が作られたことがうかがえる。時とともに円盤中のガスがだんだん冷えると、水の氷の粒が作られて酸素が消費されるので、酸素の割合が少なくなるのだ。そして氷や塵の固体微粒子から中心核が作られ、惑星が形成されはじめる。

「固体の中心核がじゅうぶんに成長しさえすれば、その重力ですばやく周囲のガスが引きつけられ、今のような巨大ガス惑星になります。そのガスが酸素の一部を失っていたために、重力不安定モデルで形成された場合よりも、酸素と水が少ない状態となるのです」(Konopackyさん)。

HR 8799の惑星は、恒星から遠く離れており、しかも最小のものでも木星の3倍の質量という巨大惑星ばかりなので、直接個別に観測することができる。そのため、惑星大気の絶好の研究対象なのだという。

「HR 8799系は太陽系を拡大したようなものです。中心星から遠い巨大ガス惑星の存在に加えて、もっと近い距離に地球のような惑星を発見したとしても驚きではありません」。そう語るKonopackyさんは、今後巨大ガス惑星の性質と大気とをより詳しく理解するため、さらに研究を行っていくという。


ステラナビゲータで系外惑星の位置を表示

ステラナビゲータでは、670個を超える「惑星の存在が確認された恒星」を追加天体として「コンテンツ・ライブラリ」で公開しており、 HR 8799(中心の星)が存在する方向を星図に表示できます。ステラナビゲータをご利用の方は、ステラナビゲータの「コンテンツ・ライブラリ」からファイルをダウンロードしてください。なお、コンテンツ・ライブラリのデータでは、HR 8799は「V342 Peg」という名前で登録されており、四辺形の中(西寄り)に表示されます。