「あかつき」、金星に巨大な弓状構造を観測

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探査機「あかつき」の観測で、金星の南北方向に約1万kmにもわたる弓状構造がとらえられた。超高速風のスーパーローテーションに流されることなく形状が保たれており、下層大気の圧力変化が上空に伝わって作られたものと考えられている。

【2017年1月19日 JAXA/ISAS立教大学

2015年12月から金星の周回探査を開始した探査機「あかつき」が初期観測で、金星の南北方向に約1万kmにわたる弓状構造をとらえた。

「あかつき」が撮影した金星
2015年12月に「あかつき」が撮影した金星。(左)輝度温度、(右)放射輝度(提供:JAXA、以下同)

金星では「スーパーローテーション」と呼ばれる高速の東風が吹いており、その速さは金星を覆う雲層の上端(高度約65km)で秒速約100mにも達する。しかし、弓状構造は4日間の観測期間中に地理的にほぼ同じ場所に出現しており、スーパーローテーションの影響を受けていないことが確認された。こうした現象はこれまでどの惑星でも発見されたことがなく、温度構造や発生メカニズムに関心が集まった。

金星の地形と弓状構造の位置を比較したところ、弓状構造の中心部分直下に標高約5kmのアフロディーテ大陸が位置していた。そこで、大気数値シミュレーションによって、どのような条件下で弓状構造が発生するかが調べられた。

シミュレーションでは、高度10kmの下層大気に局所的な気圧変化が与えられると、それが「重力波」と呼ばれる波となって上空に伝搬し、高度65kmに達すると弓なりの形に広がるという結果が得られた。つまり、下層大気の限られた領域での気圧変化が大気を伝搬し、最終的には巨大な弓状構造を作ることが示された。

観測データとシミュレーションの比較
観測データ(左)と数値シミュレーション(右)の比較

地球でも、アンデス山脈などの風下で重力波が観測されることがあるが、今回金星で見つかった弓状構造はそれをはるかに上回る大規模なものだ。弓状構造は2016年1月には観測されなくなったことから、弓状構造の出現には何らかの条件が必要であると推測されている。

研究チームは弓状構造の観測を強化しており、今後のデータ解析と詳細なシミュレーションによって、波の源である下層大気の気象について理解が進むことが期待される。