中間赤外線で明るく輝く土星の「カッシーニの間隙」
【2017年2月27日 すばる望遠鏡】
土星の環は直径数cmから数mほどの氷の粒が無数に集まってできているものだ。環の主要部は、内側から順に「C環」「B環」「A環」と呼ばれる「濃さ(明るさ)」の異なる部分でできており、一番明るいB環とその外側のA環の間には「カッシーニの間隙」と呼ばれる隙間(暗い部分)が存在する。
国立天文台ハワイ観測所の藤原英明さんは、すばる望遠鏡の広報活動の一環として魅力的な土星の画像を作成する目的で、すばる望遠鏡の冷却中間赤外線分光撮像装置「COMICS」によって撮影されたデータを解析していた。その際に藤原さんは、環の輝き方が、普段見慣れた可視光線での像と中間赤外線での像とではまったく異なることに気づいた。
中間赤外線像ではカッシーニの間隙とC環が明るく、B環とA環は暗いが、可視光線では反対に、常にB環とA環が明るく、カッシーニの間隙とC環はとても暗く見えるのだ。
中間赤外線で観測されるのは環を構成する粒子が発する熱放射である。画像から各環の温度を測定したところ、カッシーニの間隙とC環が、B環とA環に比べて高温であることがわかった。カッシーニの間隙とC環は粒子の密集度が低いため、太陽光がよく差し込む。また、これらの部分を構成する粒子は黒っぽいことも知られている。こうした理由から、カッシーニの間隙とC環はB環とA環よりも温まりやすいので、粒子の密集度が低いにもかかわらず中間赤外線で明るく見えたのだろう。
一方、可視光線で見えるのは、環の粒子で反射された太陽光である。B環とA環は粒子が多いので可視光線では常に明るく見え、反対にカッシーニの間隙とC環は常に暗く見えるというわけだ。
ただし、カッシーニの間隙とC環が中間赤外線で常に明るいというわけではない。2005年4月に撮影された中間赤外線データを確認したところ、この時にはカッシーニの間隙とC環はB環とA環よりも暗く観測されていた。
研究チームは、この「逆転現象」は太陽や地球に対する環の開き具合が変化することによって引き起こされると考えている。土星は地球と同様、約27度傾いた状態で公転している。そのため、太陽に対する環の開き具合は公転周期の半分である約15年周期で大きく変化し、それに伴う季節変化によって太陽光の差し込み方が変わることで粒子の温度が変わる。また、地球から環を見通した時の粒子の密集度も、環の開き具合に応じて変わる。環の粒子の温度や見かけの密集度が変わることで、中間赤外線での環の輝き方が変化し、結果として明るさが逆転することもあるというわけだ。
「すばる望遠鏡の広報活動がそのまま科学成果につながり、嬉しく思います。今年5月には別の手段で土星の観測を行う予定です。探査機と地上望遠鏡のそれぞれの特長を活かしてデータを蓄積し、環の性質をさらに詳しく調べていきます」(藤原さん)。
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〈参照〉
- すばる望遠鏡: 中間赤外線で見た土星リングの姿 〜明るく輝く「カッシーニのすき間」〜
- Astronomy and Astrophysics: Seasonal variation of the radial brightness contrast of Saturn's rings viewed in mid-infrared by Subaru/COMICS 論文
〈関連リンク〉
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