すばる望遠鏡による大規模観測データを公開、7000万個の銀河や星

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すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム」で進められている観測プログラム「HSC-SSP」の第1期データが公開された。7000万個の銀河や星が含まれた、「宇宙の国勢調査」とも言える大規模なものだ。

【2017年3月2日 すばる望遠鏡国立天文台カブリIPMU

HSC-SSPは、国立天文台が東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構などと共同で進めている、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」を使った大規模な戦略枠観測プログラムだ。2014年から5~6年かけて、300夜もの観測を行う計画となっている。

104個のCCDからなるHSCは計8億7000万ピクセルの画素数を持ち、約1.77平方度(満月約9個分)の天域を一度に撮影できる超広視野カメラである。HSC-SSPでは、このHSCに5つの広帯域フィルター(可視光線~近赤外線)と4つの狭帯域フィルターを用いて、「ワイド」「ディープ」「ウルトラディープ」の3種類の深さ(どのくらい暗い天体=遠い天体まで見ることができるかという指標)でサーベイ(掃天観測)を行っている。

今回第1期データとして公開されたのは、2014年からの1.7年分、61.5夜のデータだ。たとえば「ワイド」では108平方度(満月約540個分)の領域を観測しており、26.4等級(rバンド)までの天体がとらえられている。星像の広がり具合を表すシーイングは0.6~0.8秒角(1秒角は3600分の1度)と、他の観測に比べてより深く非常に質の高いデータが得られている。

COSMOS領域
ろくぶんぎ座方向にあるCOSMOS領域(ディープ、ウルトラディープで観測)の3色合成画像。1000以上もの銀河が含まれており、写っている中で最も遠い銀河は宇宙誕生後10億年以内に形成されたもの(提供:プリンストン大学/HSC Project)

この第1期データでは、すでに7000万個の銀河や星がカタログになっている。このことからも、HSC-SSPはすばる望遠鏡とHSCの性能を最大限に活かしたサーベイと言えるだろう。2015年の初期成果論文で、2.3平方度にわたる天域において、重力レンズ効果の解析から銀河団規模のダークマター(暗黒物質)の集中が9つ存在することを突き止めているが(参照:アストロアーツニュース「すばる望遠鏡HSCが描き出した最初のダークマター地図」)、今回のデータはその約50倍の広さの天域を含んでいるため、ダークマターの統計的性質に迫る成果が期待されている。

HSC-SSPのデータは研究者だけでなく一般にも公開されているので、世界中の誰もが解析を行ったり画像を見たりすることが可能だ。総データ量が80テラバイト(一般的なデジタルカメラ画像の約1000万枚分)と膨大なため、専用のデータベースやユーザーインターフェースも開発されており、ビッグデータによる研究が誰でもできるように工夫されている。第2期のデータリリースは2019年、第3期は2021年の予定だ。

「今回のデータリリースで、ダークマターやダークエネルギー、さらには太陽系内天体から最遠方天体までの非常に幅広いサイエンスで大きな結果が得られると期待されています。研究者だけでなく一般の方々にもご覧いただき、大望遠鏡で見た本物の宇宙を体験していただけれることを願っています」(国立天文台 宮崎聡さん)。

GAMA15H領域
おとめ座方向のGAMA15H領域(ワイドで観測)にある強い重力レンズ効果が見られる銀河団の3色合成画像。中心の銀河までの距離は53億光年だが、その周囲にあるレンズ効果で弓状に見える銀河はさらに遠くにある(提供:プリンストン大学/HSC Project、以下同)

おたまじゃくし銀河
りゅう座方向(ディープで観測)4億光年彼方にある「おたまじゃくし銀河」UGC 10214の3色合成画像。銀河同士のすれ違いによる重力相互作用で尾ができている

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