厚い大気に覆われていた40億年前の火星
【2017年9月11日 東京工業大学】
火星はかつて温暖で、液体の水(海)が存在した時期があった可能性が指摘されている。温暖な環境を保つためには厚い大気の温室効果が必要となるが、現在の火星には0.006気圧(地球の170分の1)の薄い大気しかない。火星は過去に厚い大気に覆われていたのか、もしそうなら、いつどのように厚い大気が失われたのかという問題は、火星に関する大きな謎である。
火星大気が宇宙空間に流出する過程では軽い同位体が優先的に失われ、その影響は大気に重い同位体が濃集するという形で表れる。東京工業大学の黒川宏之さんと千葉工業大学の黒澤耕介さんたちの研究グループは、この濃集度が大気圧に依存することに着目し、過去の火星の大気圧を推定した。
過去の研究で報告されていた、40億年前の火星隕石に記録されている当時の大気の窒素とアルゴンの同位体組成と、新たに行った理論計算とを比較したところ、当時の火星が約0.5気圧以上の厚い大気に覆われていたことが明らかになった。火星の固有磁場消失に伴う大規模な大気の宇宙空間への流出など、40億年前以降に起こった環境変動が、地球と火星の大気の厚さの違いを生んだことを示唆する結果である。
現在、NASAの火星探査機「メイブン」によって火星大気の流出現象の観測が行われており、JAXAが2024年に打ち上げを計画中の火星衛星サンプルリターンミッション「MMX」でも、この流出現象の観測が行われる予定となっている。これらの探査を通じて、今回の研究で明らかとなった40億年前の厚い大気が失われた原因が解明されるかもしれない。これらの研究成果が、地球や火星などの長期環境変動の要因や、生命が存在可能な環境を維持する条件の理解につながることも期待される。
〈参照〉
- 東京工業大学:40億年前の火星は厚い大気に覆われていた ―太古の隕石に刻まれた火星環境の大変動―
- Icarus:A Lower Limit of Atmospheric Pressure on Early Mars Inferred from Nitrogen and Argon Isotopic Compositions 論文
〈関連リンク〉
- メイブン
- JAXA宇宙科学研究所:火星衛星探査計画(MMX)
- MMX - Martian Moons eXploration
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー:2017年 火星
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