42年ぶりに地球水素コロナ全体像の撮影に成功
【2017年12月12日 立教大学】
地球周辺に広がる水素大気発光である「ジオコロナ(地球水素コロナ)」は、1972年4月にアポロ16号の宇宙飛行士が月から初めて撮像した。アポロ計画以降も地球近傍で地球水素コロナの観測が続けられ、水素大気分布に関する情報が蓄積されてきたが、その全体像がとらえられる機会はなかった。
地球近傍から行われた観測で取得されたデータをもとにした推定から、地球から離れたところでの地球水素コロナは磁気圏活動によって赤道方向に膨らむような形状になると考えられてきた。しかし、これまでの観測が遠方まで広がる水素大気の全体像を正しくとらえたものであったかどうかは不確実なままだった。
立教大学の亀田真吾さんらの研究チームは、地球水素コロナを深宇宙空間から撮影することを目的として宇宙望遠鏡「LAICA(Lyman Alpha Imaging CAmera)」を開発した。LAICAは2014年12月3日、小惑星探査機「はやぶさ2」に相乗りした超小型深宇宙探査機「PROCYON(プロキオン)」に搭載され宇宙へと飛び立った。
2015年1月9日に、プロキオンが遠方まで広がる地球水素コロナの外側に出るという非常に限られた機会を利用して、LAICAは地球から1500万km離れた宇宙空間から地球水素コロナを撮像することに世界で初めて成功した。そして、地球起源の水素原子の暗い発光が、地球の直径の約20倍に相当する約24万km以上遠方にまで到達している様子を明らかにした。アポロ16号の撮影の約10倍程度まで遠方の暗い発光がとらえられている。
さらに、地球水素コロナの外側からの観測により、その姿がこれまで推定されていたものとは大きく異なり地球公転面に対して対称な形状であること、水素大気の分布は磁気圏活動の影響を受けにくいことが確認された。
こうしたLAICAの観測結果をもとに、水素原子大気の分布を再現するモデルを検討したところ、これまでのものが非常に複雑なものであったのに対し、ある高度での大気温度、密度、太陽紫外線強度で決められるシンプルなモデルを開発することができた。地球水素コロナの外側から観測することで全体像をとらえられたおかげである。
水素大気は地球や太陽系の惑星だけでなく、太陽系外の惑星でも検出されている。また、地球では金星や火星と異なり、海洋の存在によって水素大気が大きく広がっている。系外惑星の水素大気の広がりをとらえれば、その惑星が地球のように海があり生命をはぐくむ可能性のある惑星か、金星や火星のように荒れ果てた惑星かを区別することができるだろう。水素大気の観測は地球に似た惑星の探索のために重要であり、研究チームでは今後も技術開発を続けていく予定である。
〈参照〉
- 立教大学:24万km以上まで広がる地球水素コロナの撮像に世界で初めて成功 - 超小型深宇宙探査機「PROCYON」に搭載された望遠鏡「LAICA」
- Geophysical Research Letters:Ecliptic North-South Symmetry of Hydrogen Geocorona 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2017/01/24 超小型探査機「プロキオン」、彗星の水の謎を解明
- 2015/10/16 日本の宇宙望遠鏡「LAICA」、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の撮影に成功