太陽からの紫外線が火星の大気散逸に及ぼす影響
【2018年2月15日 ヨーロッパ宇宙機関】
地球は適度な大気が存在し生命存在に適した環境の惑星だが、火星は長い歴史の早いうちに大量の大気を失い、温暖で湿潤な環境から現在の冷たく乾燥した惑星へと変化した。また、金星には厚い大気が存在しているが、高温高圧でとても生命が存在できるような惑星ではない。このように太陽系内の岩石惑星の大気はそれぞれ異なる状態にあるが、その原因を解明することは惑星の環境を生命に適したものにする条件を知る鍵となる。
地球には内部磁場が存在し、それによって地球の周囲に生み出される磁気圏が、荷電粒子の流れである太陽風から大気を守っている。一方、火星や金星には内部磁場がないため、太陽風を妨げる役割を果たすのは(地球にも存在する)電離層になる。電離層は太陽からの紫外線が惑星大気中の原子や分子から電子を剥がして作られる領域で、この層と太陽風とが作用して誘導磁気圏を生み出し、惑星の大気を太陽風から守る。
スウェーデン宇宙物理研究所のRobin Ramstadさんたちは、ヨーロッパ宇宙機関の火星探査機「マーズエクスプレス」による14年間の観測で得られたデータから、火星の大気が失われる現象において太陽の紫外線放射の影響がこれまで考えられていた以上に重要であることを明らかにした。
「これまでは、イオンの散逸は、太陽風のエネルギーが誘導磁気圏というバリアを通って電離層へ効果的に運ばれるために起こると考えてきました。しかし、直感に反するようですが、私たちが実際に目にしているのは、太陽からの紫外線放射によるイオンの生成増加によって大気が太陽風から守られているということです。イオンの散逸にエネルギーはほとんど必要なく、火星の重力が弱いために大気が失われているのです」(Ramstadさん)。
太陽からの紫外線で生じるイオンの量は、太陽風によって失われる量を上回る。しかし、イオンの発生によって大気が太陽風から守られても、火星の重力が地球の約3分の1しかないため、イオンは簡単に宇宙空間へと逃げ出していってしまう。強い太陽風によって追加のエネルギーが注がれるかどうかはあまり関係ないようだ。
「これまでに失われてきた火星の大気に対する、太陽風による直接的な影響は、とても小さいものであったようです。むしろ太陽風は、すでに逃げ出している粒子の加速に弾みをつけるという形で影響を及ぼしていただけだったでしょう。紫外線でイオン化した惑星大気の保護という点では、磁場の役割は重力ほど大きなものではないようです」(マーズエクスプレス・プロジェクトサイエンティスト Dmitri Titovさん)。
〈参照〉
- ヨーロッパ宇宙機関:Leaky Atmosphere Linked to Lightweight Planet
- Geophysical Research:Global Mars-solar wind coupling and ion escape 論文
〈関連リンク〉
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